私のお兄ちゃん
「イタチ。警務部隊の本部まで、お父さんのお弁当届けに行ってくれない?」
 縁側に面した和室に、襖を開けて母親のミコトが弁当箱で四角く膨らんだ風呂敷を手に現れた。
 庭で手裏剣の練習をしていたイタチを眺めていたマコトだが、警務部隊の本部に行くなど滅多にない機会を逃すはずがない。
「わたしもいく!」
 と、すかさず玄関に向かうイタチについて行こうとして――後ろから脇に手を差し込まれ、ヒョイと抱き上げられた。
「マコトはだーめ! お母さんとお留守番ね」
「なんで! イタチばっかりズルい!」
「イタチじゃなくてお兄ちゃんでしょう」
「イタチはイタチだよ! お兄ちゃんなんて名前じゃない!」
 どうしてもイタチを兄と呼ぶ心境になれずに、幼児の妙な持論のふりをしてマコトはイタチを呼び捨てている。
 身を捩って抵抗を試みるが、流石は上忍であるミコトの腕の中からは逃れられない。妊婦である以上激しい抵抗など出来ないしマコトが諦めようとしたら、靴を履き終わったイタチが三和土で振り返って言った。
「いいよ母さん。マコトも一緒に行こう?」
 そう言われてはミコトも諦め、マコトを下ろした。途端に早足で三和土に降りていそいそと靴を履き、急かすように引き戸を開ける。
 いってきます、と幼い兄妹の声が重なり、ミコトは溜息を付きながら家の奥に引っ込んでいった。
 はぐれないようにと家を出てすぐに繋がれた手を辿り、ひっそりと半歩前を歩くイタチの横顔を盗み見た。
「マコト、どうかした?」
 視線に気付いたイタチに、何でもないよと笑顔を向ける。
 繋がれた手の温かさや感触。いつかは赤く染まるその手にほんの微かな嫌悪感を抱きながら、知識としての未来に葛藤ともどかしさを感じた。


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