ミズキ成代
ミズキ成り代わり男主

原作知識あり。

※話の都合上の捏造や妄想が含まれます。矛盾していても深く考えずに雰囲気で読み飛ばしましょう。
※ご都合主義万歳!




 ――テンゾウ、もう少し感情を表に出しても、罰は当たらないよ。

 そんな事を言う男がいた。
 その時は何を言われているのか解らなかったし興味も無かったが、あれは自分に笑えと言っていたのだろうかと、最近になって気が付いた。
 ミズガキと言う暗部名のその男は、その名の通りに古より続く神域のような雰囲気の男だった。

 暗部と言えばお互いの素性は詮索しないのが暗黙のルールだった。そんな中、彼は気にすることもなくよく素顔を晒していた。そんな時は決まって外した面をじっと見詰めているのだ。食い入る様に、何かを確かめる様に、他者を寄せ付けない雰囲気で、面を見ているのだ。初めはそんなにその暗部面が気に入っているのかとそれくらいにしか思わなかったのだが、そうじゃないのだと気づいたのは、ほんの一瞬自嘲気味に口の端を上げていたのを見てしまったからだった。
「カナリアってバカな鳥だと思わないかい? その美しい歌声故に籠の中へ捕らえられ、人間の慰みモノとして歌い続けなければならない。人間は歌声の美しさを保つためにカナリアを番わせない。本当はパートナーに聞かせるための歌なのに……。歌わなくなったカナリアはどうなるのかな? もう要らないから籠の扉を開けてもらえる? 違うんだよ。歌わなくなったカナリアはね、籠ごと水の中に沈められるんだ。本来羽ばたく筈だった、青い空と輝かしい太陽を臨みながらね」
「……貴方は、一体、何の話をしてるんですか?」
「何って――『カナリア』の話だよ」
 優しくて強い人だった。だからこそ逃げ出すことが出来ずに、鳴禽を模した暗部面の下でその表情を悲痛に歪ませていたのを知るのは、多分自分だけだ。

 最近見ないと思っていたら、どうやらアカデミーの教師になったらしいと仲間の暗部から聞いた。暗部がアカデミーの教師になるとは妙な人事だと思ったが、彼には暗部より教師の方が向いているだろう。
 陽の当たる場所で子供達に囲まれている姿は、想像に難くない。
 初代火影の遺伝子を大蛇丸によって組み込まれた実験体の唯一の生き残りとして、生まれた時から裏側にいた自分には一生関係のない世界だ。

 ――らしくないことをしたと自覚している。それでも、気になって仕方がなかった。今や彼は一介のアカデミー教師のはずで、火影様と二人きりで話をするなど、あり得ないことだった。
 だから、盗み聞きをした。
 そして、盗み聞いた内容はとてもじゃないが納得できるものではなかった。
「何で先輩がそんなことをしなければならないんですか……!」
「いいんだよテンゾウ。いつかはこうなるって知っていたし、ナルト君もいい加減あのままではいられないんだ。これでやっと彼の未来は開ける。教師として最高の仕事じゃないか」
「自分の未来はどうだっていいって言うんですか?」
「……違うよ、テンゾウ。オレは自由になるんだ」
「自由?」
「全部終わったらチャクラを封印されて、国外退去になるんだ。もう何処の忍だとか敵だとか味方だとか気にしないで、何処へでも好きな所へ行けるようになるんだ」
「っ、何ですかそれ……! 『自由』なんて、聞こえのいい厄介払いじゃないですかっ!!」
「――テンゾウ、君らしくないことを言うじゃないか。……忍は心の上に刃と書く。明日死ねと言われたら、死ぬ。それが忍だ。……だけどオレは死ぬわけじゃない。僥倖だろ?」
 笑っているのに、突き放すような嘘くさい笑みだった。
 心の上に置かれた刃は簡単に己や愛する者の命を奪うことぐらい、彼は知っているはずなのに。

 九尾の人柱力であるうずまきナルトを騙して禁術の巻物を盗ませ、九尾が封印されていることをナルトに向かって暴露した上、ナルトとアカデミー教師のうみのイルカを殺そうとしたが、ナルトの影分身の術で返り討ちに遭い計画は失敗に終わる。
 木ノ葉が彼に書かせたのはそんなシナリオだった。

 全身をくまなく殴打されて気絶した彼を背におぶって『連行』する。木々を跳躍し移動していると微かな呻き声が聞こえた。
「……ありがとうテンゾウ。もう大丈夫、一人で動けるよ」
「先輩……」
「ナルト君が座学のサボリ魔で助かったよ。じゃなければ今頃急所をやられて死んでいたかもしれないね」
 背負っているので彼の表情は伺えなかったが、きっといつものように笑顔を浮かべているのだろうと思った。

 罪人として地下牢に投獄されてなお、彼は穏やかだった。

 あれから三年近く経った。
 ヤマトという新しい名を与えられ、カカシ先輩の代わりにあのうずまきナルトが所属する第七班の隊長を務めている。
「ヤマト隊長ー腹減ったー」
「私もー。お腹と背中がくっつきそう」
「お腹と背中がくっついたら、それこそ背中だか胸だかわかりませんね」
「サイあんたねー!!」
「じゃあそこの茶屋で軽く食べておこうか」
 サイを絞殺しそうな勢いのサクラを宥めて茶屋に向かう。自分の後ろをぎゃーぎゃー騒ぎながら付いて来る班員を見て、ふと、彼を思い出した。
 暗闇で悲しみに暮れていた彼。陽の当たる場所で生徒に囲まれていた彼。
「ちょっと待ってよー」
 その時、黒い髪をなびかせて一人の女が脇を通り過ぎた。
「ツバキ、走ったら危ないよ」
 聞き覚えのある声に思わず振り返った。擦れ違った男の笑顔は、懐かしかった。


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