ひまわり
 愛だの希望だの誰かの為だの、くだらないとは思わなかったが自分とは到底関係のないものだと思っていた。
 忍界大戦とはいえ戦場で戦う事のない里の居残り組だった私は下忍やアカデミー生の面倒を見る日々を送っていた。だのに、どう言う訳か今にも死にそうになっている。
「――……マコト……」
 カカシさんが呆然と私の名前を呼びながら腕を引き抜いた。雷切によって貫かれた胸部はきっと、漫画みたいに血や肉を滴らせる風穴が空いているのだろう。
 これじゃあまるで再不斬の為に死んだ白みたいじゃないか。私はあんなに清くないぞ。と、思わず笑ってしまった。表情に出ていたかどうかは微妙だが。
 呼吸をしようと思うのに口から吐き出されるのは二酸化炭素のかわりにどす黒い血で、気管をごぼごぼと血液が上下しているのがわかった。
「――――」
 ぐらり、と世界が歪む。
 倒れないようにと踏ん張ったのに身体はそうでもなくて、膝が抜けるとか崩れるってこういうことを言うのかと思った。そのまま倒れるはずだった身体はカカシさんの腕の中に収まり、神威で時空間から出たのか周りが騒がしく土埃の匂いが強くなった。
 あの人の姿が見えた。お面をしていない顔を見るのは久し振りだった。
「……マダラさ、ま……」
 声を出そうとするだけで傷に響く。意識が飛びそうになる。腕を伸ばしても、物理現実の私は一ミリも動けていない。
「マコト動くな! 今救護班を――」
 自分で与えた傷だ、私の状態がどんなものか分かっているだろうに、カカシさんは優しくて愚かだ。
「何故だ……」
 ――何で自分を庇ったのかという解釈でいいのだろうか。……答えはいくらでもある。答えようとすればいくらだって答えられる。だが、それを言って一体何になる?
「……この世界で、貴方だけが本物だった」
 森であの日、声を掛けられたあの瞬間がすべてだった。赤ん坊の時に一度だけ見たことがあるオビトがマダラさまの正体だと知っても私の気持ちは変わらなかった。
 さんざっぱらイタチの自己犠牲を否定してきた私が、今まさに誰かの為に死のうとしているなんて笑える話だ。
 最低の自己満足。
 灰色の霞に視界が塗り潰されていく。
 物語の結末を見るのが第一目的だったのに、こんな終わりを迎えるなんて私らしくない。
 血で汚れた口の周りを袖で拭った。力が入らなかったので拭いきれたかどうかは怪しいけれど、口の周りを血でダラダラ濡らしたみっともない顔をマダラさまに見せたくなかった。
「またね」
 小さく手を振って、そこで私の意識は終わりを迎えた。


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