刃毀れ
 姉はよく縁側に座っている。何をしているのと聞いても、無視か生返事か何もしないをしている、と要領の得ない輪郭のぼやけた返事ばかり。
 そんなときは決まって、老いて死期を悟った坊主のような静謐さを漂わす。
 どこか遠くに意識を置いてきて、何にも見ていないかのような目をしている。
「……、姉さん」
 父と兄との間に流れる、息苦しささえ覚える隔意のような微妙な空気。
「姉さん!」
 昔から何となく感じていた姉の周りを包む壁と似たようなものが、父や兄からも最近感じるようになった。
「ん、どうした?」
 兄にそっくりな顔が、オレを見て母のように穏やかに笑む。

 ――兄さんはいつから笑わなくなった?

 久しく見ていない兄の笑顔を思い浮かべた。このままでは家族がバラバラになってしまう気がした。
「……兄さんと父さん、最近変だよね?」
「そうかな、前からあんなだった気がするけど……」
 意を決して口にした言葉に姉は爪の甘皮を弄りながらあっさりと返した。オレとは目を合わせようともしなかった。
「そう、かな……」
 オレが気を回し過ぎているのだろうか、過敏になっているのだろうか。でも自分は確かにおかしな空気を感じているのに、
「サスケ」
 はっと我に帰り、姉の手招きに応じて隣に腰を下ろした。
「……修行、頑張ってるみたいだね」
 自分でも気付かなかった、膝の剥がれかけていた絆創膏を貼り直してくれるその手は意外にも温かかった。
「姉さんは父さんに期待されたいとか思わないの?」
「思わないねェ……。私がどう頑張ったってイタチになれるわけじゃないし、そんなにヤル気のある人間じゃないからね。テキトーに生きてテキトーに死ぬのがお似合いなのさ」
「でも兄さんが言ってたよ、『マコトはもったいない』って」
「それこそ買いかぶり過ぎさァー。身内の贔屓目ってやつさね。――サスケは、期待されたいのかな? デキのいい兄がいると困るよね。どんなに頑張っても超えられない。超えたいのに超えたくない、だって『憧れの兄』だから。イタチがとんでもない人格崩壊者のゲス野郎だったら気兼ねなく妬んで憎めるのにね、それも出来ない。本当に厄介だ」
 ふいに目が合って、黒曜石をはめ込んだような、全てを見透かされてしまうのではないかと思わせる瞳にぎくりと心臓が苦しくなる感覚を覚えた。
「でも、妬むのは悪いことじゃないよ。悪いのは妬みを妬みのままにしておくこと。妬みはやる気に変えられる。……サスケは私と違うんだからさ、『うちは』や『木ノ葉』に囚われないで世界の広さを知りなよ?」
 なぜだか無性に涙があふれて止まらなかった。
 嬉しかったからじゃない。「私とは違うんだから」。その言葉で姉に見捨てられたのだと、解ってしまったからだ。


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