ダブルトラッキング
「イン、結界班から侵入者らしき痕跡が見付かったと連絡が入った。ボクと来て」
 猫面を付けたテンゾウさんに帰り際に言われ、今日はもう上がりなのにとも言えず、ランドリーに出す予定だった外套に再び袖を通して面を着ける。
「らしき痕跡、って随分不確定なんですね」
 目的の場所まで木々を跳躍しながら結構なスピードで進む。
「反応が微弱すぎて情報があまり拾えなかったらしい」
「左様ですか。――で、殺っちゃって良いんですか?」
「……インって意外と物騒だよね」
「そうですか? 横着なだけですよ」
 帰る気満々だった分、ダルくて眠くて仕方がない。面の下でこっそり欠伸をしたら、ボクだって昨日寝てないんだよね、とぼそりと聞こえた。お互い様ってことらしい。

 目的の場所にいたのは、何やら可愛らしい女の子だった。
 緩くウェーブのかけられた栗色の髪、淡く色づく唇、肌荒れとは縁遠い滑らかな肌。異質なのは、その服装。こちらではまず見ることのない、ブレザータイプの女子の学生服を身に纏っていた。
「あの格好、忍じゃないですよね」
「木ノ葉じゃ見ない服装だね」
 ブツブツ何事かを呟きながら歩いている彼女を、木の上から観察しながら後を付ける。
 勘であって確証はないが、あれは多分、自分と同郷の人間だ。所謂『異世界人』。
「……私が先に接触して良いですか?」
「良いけど殺さないように」
「りょーかい」
 彼女の真上の枝まで行き、音もなく背後に降り立つ。短刀を首に当てれば、小さく悲鳴を上げた。
「何者だ」
「わ、私、気が付いたらここにいて、道路とか街とか、探してて、それで……」
 ハイ決定。トリップですね。
「イン。彼女、何だって?」
 木から降りてきたテンゾウさんに驚いたのか、肩が跳ねた。
「迷子みたいですよ。ここがどこかも解ってないみたいですし、どうします? 面倒臭いんで埋めちゃいましょうか」
「う、埋め……!?」
「バカなこと言わないの。とりあえず拘束して、尋問部に引き渡そう」
「いえっさー」
「待って下さい! 私怪しくないです! 本当に迷子なんです! 尋問部って拷問とかするんですよね? 私、吐ける情報なんて持ってないです!! だから……」
「この子煩いですね。やっぱり埋めちゃいましょうか、『テンゾウ』さん」
「え、テンゾウ!?」
「……ボクを知ってるのかい?」
「え、あ、あのっ、知り合いに同じような名前の人がいたので……」
「そう……」
 どうしよう。この子馬鹿かも知れない。名前に反応するとか、ボロ出んの早すぎでしょ。あー! 余計なこと言いませんように!
「名前は?」
「姫子(ひめこ)です! 小鳥が遊ぶって書いて小鳥遊(たかなし)姫子!」
「タカナシヒメコね、聞き慣れない音の名前だな……」
「大人しくしてないと殺すからね」
 そう言いながら手足を拘束していると、余程私が嫌なのかテンゾウさんをチラチラ見て助けてオーラを出している。
「インは本当に殺すから、言うことを聞いた方が君のためだよ」
「酷い言い種。この間のまだ怒ってるんですか?」
「ボクは事実を言っているだけだ」
「ちぇ」
 よいせー、この子軽いなー。左肩に俵担ぎにすると腹に肩が刺さったのか、ぐぇ、と変な声が背中から聞こえた。シャンプーだか何だかの甘いけれど爽やかな香りがした。なかなかの趣味だ。ウエストは折れそうに細いけれど腰はしっかりしているし、安産型かな。バストもそこそこあるし、美味しそうな娘。ゲンマさんとかアオバさんが好きそうな感じだ。
「チッ、何でカカシじゃないのよ。カカシならお姫様抱っこで運んでくれるのに!」
 ……あらやだこの子、ちょー怖い。

 三ヶ月の任務から帰ってきたら、あの子はいなくなっていた。
「テンゾウさん、テンゾウさん。あの子どうなったんですか?」
「ん? ああ、タカナシヒメコね。尋問部で世界がどうとか未来が描かれている書物を知っているとか、おかしなことばかり口にしてね。……記憶を覗いてもプロテクトが強固で何も判らずじまい。拷問中に絶命したそうだよ」
「そう、なんですか……」
 イビキさんやるぅ。色んなこと夢見てトリップしたんだろうけど、残念だったねぇ……。この世界には先客がいたのだよ。残念無念、まった来世―。


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