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 2017/7/25「土用の丑の日」




「鰻とは、豪勢だな」



目の前にはふっくらした鰻の蒲焼きが重箱に収まっていた
年期の入った部屋と比べると少々場違いな気もする


「今日は土用の丑の日じゃあないですか」

「丑の日?」

「鰻を食べて、夏を乗り切ろうという日です」

「へえ」


中骨をしっかり取り除かれた鰻は、箸がすっと入る
一口大にして、口へ運ぶと醤油やみりんのしょっぱさがご飯に合った
米の炊き方も絶妙で、もちもちしている


「山椒は粉が多いですが、実で食べるのも好きなのですよ」


山椒の実を鰻に乗せ、一緒に口へ運ぶ
噛むうちに山椒の実の歯応えがあり、一気に独特の爽やかさが広がった


「悪くない」


脂の乗った鰻の口直しに山椒の香りは丁度良かった
亭主さんが、値段おまけしてくれたのですよ、と狐も上機嫌で重箱を減らしている
たまの出前も良いものである


鰻を完食し、煙草を吸っていたアカギが、火を消して立ち上がる


「精もついたことだし、鉄火場にでも行くか」

「奇遇ですね、丁度同じことを考えていましたよ」

「そいつは重畳」


妖しく笑う女も羽織を手に後に続く


生き生きとした目の異形が二人、そうしてネオン街に消えて行った







夏の恋人番外編





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