◎ 2017/10/4 「仲秋の名月」…13
休業日にもかかわらず昼間から台所で何やら狐は作っている
横から覗くと煮たった鍋とボウルがある
「何を作ってるの」
「お団子ですよ」
アカギさんも手伝ってくださいと目の前に生地の入ったボウルが置かれた
手に取ると団子粉独特のぬめりがあり、手にへばりつく
隣に習い、見よう見真似で生地を取って丸める
「なんだってこんなに沢山作ってる」
「常連さんに届けるんですよ」
「殊勝だな」
そういえば今日は仲秋の名月とやらだったか
この団子は月に供えるものか
幾分か数をこなすと段々手慣れてくる
残りはアカギに任せて、狐は出来上がった団子を鍋に入れ始めた
暫くすると団子は浮いてくるのて、それを氷水で冷やして出来上がりだ
水上げした団子を手で摘まみ、事前に作っておいた餡につけ、口に放る
ぬめりのある表面を噛み締めるともちもちとした食感がある
少し粉っぽいが最初にしてはまずまずの出来だ
もう1つを同じようにして、アカギの口に入れる
唇が団子を指先ごと食む
たまに料理の手伝いをすると口に出来立てを放り込んでくるので、アカギはさして気にもせずに受け付けた
もぐもぐ咀嚼しながら手元で団子を丸める
特に何の感想も述べなかったが、しゃんと飲み込んだ
不思議なことだ、こんな風に自分が振る舞うことは狐以外の人間の前ではあり得ない
なんだかんだと居候を続けていることも。
何かが変わり始めているのだ
その後も黙々と団子を量産し、日は暮れていった
「冬の人」辺りの話
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