*夢主がトランスジェンダー




気紛れで久しく通っていない学校に行った
アカギが昼過ぎに教室へ入ると一斉に視線が集まる
只でさえ目立つ白髪に、不登校ともなれば目もつけられる
後方から空いている席を探すと教師が無言で窓際の席に顎を向ける
黒板に向かって左から二番目の列、一番後ろの席が空いていた
机に掛ける鞄は持ってきていないので、身軽に席に付く
黒板をちらりと見ると数式が並んでいる
麻雀の処理よりも簡単な計算だ
座席に向かって歩いている時から気になっていた隣の席に視線を写す
入ってきた時からおや、と思ったのだ
この学校は男女で座る座席の列を分けているので、前後は必ず同性が座るはずなのだ
人数が溢れても必ずそれは実行される
しかし、アカギの左隣、窓際には男が机に突っ伏していた
その男の前には勿論女生徒が座っている
性別以外は特に変わった様子はない

暫く授業を受けていると、隣の男が面をあげた
机に伏せるような体制は変えずに脇の鞄を片手で漁り、何やら取り出した
見ると2cmほどの木製のコマだ
自分で着色をしたであろうピンクの丸々とした形状のものを眼前で弄んでいる
真面目に授業を受けている様子は微塵も無い
厄介者は他の生徒の目に入らないように後ろという訳だ
コマにも飽きて鞄に戻そうという時に横を向いたその男と初めて目があった


「…赤木しげる?」

「そう」


以外にも少し高い、優しい声だった
自分を誇示したがるようなタイプの不良ではない
興味深そうに目をぱちくりしている
他の生徒に見られるような恐れや敬遠は感じられない


「退屈?」

「…うん」

「これ、やるよ」


ポケットから木の枝と輪ゴムを組み合わせたゴム鉄砲を差し出される
持ち手に幾らか輪ゴムが巻いてあるのでこれを玉に使うようだ


「上手くやれよ」


バレないようにしろと、隣の男は注意する


「あんた、名前は」

「水野」

「ふーん」


早速撃鉄に輪ゴムを引っかけ狙いを定める
教師は長い数式を一生懸命書いているので振り向く心配は無い
よれよれの襟から僅かに見えるうなじを目掛けて引き金を引いた

ぱちっと輪ゴムの当たる音が聞こえた
教師が振り向く


「誰だ」


静まり返る教室、誰もが目をつけられたくないと目を伏せる


「ちっ」


割と日常茶飯事なのか、あまり追及せずに教師は授業を続けた
鉄砲を返しながらアカギが隣に尋ねる
机に向かって遊んでいるくらいなら外に出た方がましだろうに


「何しに学校来てるの」

「武器の密輸」


声だけは得意気だが、顔はちっとも変わらない
アカギに似て、年齢以上に落ち着いた構え方
斜に構えた態度、何処か達観して諦めたような視線
こいつも飽いているのだ、世界に
他の生徒にも見ない性質では無いが、これは特に退屈そうにしていた
感情の起伏が殆ど感じられない

同類の気配を感じるが、纏っている空気に理解できないところがある
常識に飽いて自由に振る舞っているというよりは、常識に嫌悪し、飽いてそれに反発することを良しとしているようだった
初対面でいきなり鉄砲を渡してくるとは。
こんな学校にも変わった奴がいるものだ



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