1




戦いは熾烈を極めた
飲み慣れている水野が有利に思えるこの勝負
肝は飲む分量を自分で調節できることと、縁側から離れられないことだった

真冬の縁側に着流しに羽織り一枚でいるのだ
これはもう酔いがどうのとかではなくて、根競べである
アカギの一言で勝負の本質が変わってしまった
24時までとなると四時間の大勝負
様子を見たところ水野はアカギより観光の疲れが出ている
アカギに勝機があるとすればこのあたりであった
しかも手洗いにも立てない
唯一許されるのは酒の追加注文を内線で行うために部屋に戻ることだけである

水野も早くからそのことに気がついていた
が、勝負を仕掛けた手前後には引けなかった
元々アカギを草津へ誘ったのも、この前の傷を癒すために湯治は良いかもしれないと思ったからだった
こんな勝負をすれば、余計に体に障るではないか。
水野は僅かだが、何かと体に負担をかけたがるアカギに苛立っていた
先のことを考えると酒の量も調節しなければならない
しかし、一度に沢山飲まないでいるとアカギがペースを上げて急き立ててくるのだ
体とプライドを磨耗する真剣勝負


開戦から三時間半


徳利13本目が空いた瞬間
アカギの体がぐわんと後ろに傾いた
咄嗟に受け止めて仰向けにすると、目を閉じて寝息を立てている

軍配は水野に上がった

アカギがかなり粘ったので、水野も限界だった
酔いはアカギほど回っていないが、寒さとアルコールとで気分は最悪だった
御手洗いに行ってからアカギを揺り起こす


「アカギさん、歯くらい磨かないと」

「ん」


ふらふら立ち上がって洗面台へ向かったアカギを背に、徳利を片付ける
自分も洗面台へ向かうと目を閉じたままアカギは歯を磨いていた
少し前後にゆらゆらしている
それでも歯磨きを終えて布団へ入っていった

水野も布団に向かおうとアカギの横を通った時、アカギが足首を掴んだ
何か伝えたいのかと思って、側へ座る
目がうっすらと開いて、今度は水野の腕をぐいぐいと引こうとするが、力は入っていない


「水野さん」


取り敢えず背中をぽんぽん叩いてやると、また眠った
アカギは自分に何を求めているのだろう
勝負師の熱さなのか、母性なのか、それとも異性のそれなのか。


そっと捕まれた腕を解いて、自分の布団へ戻った






[21/147]



戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -