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「ああ、今日は冬至なのですよ」
向かいの水野がこともなさげに言った
「どういう字」
「冬に至るです。一年で最も夜が長く、寒いので柚子湯に入って風邪を引かないようにするんです」
「そうなんだ」
カボチャの煮物をつつきながら、アカギが答える
水野の方が長く生きていて知っていることが沢山あるので、こうして教えてもらうことはままあった
水野は歳時を大切にする人間で、酉の市には熊手を買いに行ったりもした
確かにもう日が暮れている
外は一等冷え込むだろう
「これからちょっと出てきます」
箸を置くとすぐにアカギは上着を羽織った
「わかりました、ああ、店を閉めるまで入れなくなってしまいますね。…これを」
手渡されたのは鍵だった
鈴がついている
「二階の私の部屋の鍵です。帰ってきてお客さんがまだ居たら、二階にいてください」
「わかった。行ってきます」
今日は営業日だ
アカギはこれからネオン街の雀荘に行こうとしていた、帰りは何時になるかわからない
今晩の相手は女を沢山引き連れていて、
アカギが勝負に勝つとそのうちの何人かがその腕に惚れ込み、しなだれかかってきた
ぷよぷよした柔らかさと香水の臭いが気持ち悪かった
これと水野が同じ生きものだと思うとやはり不思議で仕方がない
しかし、何が違うのだろう
水野の体も弾力があり、柔らかかった
いつも着物に焚き染めているのか、ゆるく香の香りもする
物質的になんら変わらない
でも圧倒的に遠い
試しに女に触ってみたが、やはり吐き気がして突っぱねてしまった