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すっと寒さが体の輪郭を侵してくる
目の裏の薄暗さを視界に感じて、体の感覚が甦ってきた
ぐっすり眠れたのはいつぶりだろう
今までの疲れが一晩で取れた気がした
寒さと相対して胸や腕に触れる温かさ、何かを抱き締めている
顔に触れるさらさらしたものがくすぐったい
瞼に命令を出して、確認をすると見覚えのある模様と黒い糸の束
更に視界を上へやると


水野が眠っていた


この人の意識が無いのを良いことに、もう一度そっと腕に力を込める
頬まで埋めるとえも言えぬ安堵が生まれる
肩の荷が降りる様な脱力感を感じる
人の体はこんなにも安らげるものなのか。
今までに感じたことの無い、不可思議さだった

熱と呼吸がある、生きている

自分と同じ生を触感に感じる時に沸くのは何時だって嫌悪だった
上っ面だけで生きているモノへの嫌悪
下心ありきで触れてくるのものへの嫌悪…南郷さんは少し違うか。
生を快く感じられるのは卓を囲んだ時だけだと思っていた


何だ、これは。


思えば水野の人間らしい面を見たことがあっただろうか
飄々としている様は本当に狐か妖魔の類と同居している気分になる
隔たりがあり、自分に向ける気持ちが薄い
それが楽だ
そう思っていたのだが、やはりこの人も生きていたのか。




ならば起こして殺さねばなるまい




右腕を脇の下から抜いて、肩を軽く叩く
それだけで水野の瞼がすうと開いた


「おはようございます」

「おはよう」


直ちに水野の左手が額に添えられる


「熱は下がりましたね」


差し込む朝日に照らされた部屋
薄気味悪い笑みを浮かべた狐が蘇った






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