企画 | ナノ
「”青花候”が盗まれたことは至極残念でならない!だが、タマオカの物にならずに済んだと思うと気が晴れるのも確かだ。あの豚男には何度も辛酸を舐めさせられてきたからな……いやしかし、やはりコウヤマ先生の絵が盗まれるなどあってはならないことだ!そう思うだろう、君!」
「……はぁ」
同時刻。すすぎあらいは容疑者の一人、アミダの元に居た。
昼行灯と同じく、アミダは件の肖像画騒動で絵を探し回っていた一人であり、「耳まで王様極上食パン」のフレーズで有名な食パン専門店”王様の耳”のオーナーだ。
よく雑誌やテレビで見る、パンを作ってる馬面のおじさんというのが世間の認識のアミダだが、界隈では熱心なコウヤマ・フミノリフリークスとして有名だ。
事業の一環としてではなく完全に個人の趣味でコウヤマ・フミノリのアトリエカフェを始めたり、新店舗のオープン費をオークションで溶かしたり、此方もエピソードに事欠かない。
「そも、私があのオークションに赴いたのも、先生の絵が盗品であることを許せなかったからだ!確かに”青花候”は大変に魅力的であるし、ウタフジ・セイショウは気に入らないが、しかし先生が”ネモフィラヶ丘”の為に描いた絵であるのなら、あれはウタフジの手にあって然るべきではないかとだな」
そういえば、いつぞや放送されたコウヤマ・フミノリの特番でウタフジと激しい討論を繰り広げ、伝説の放送事故を作ったという話もあったか。
あれ以降、ウタフジが”王様の耳”のパンを断固口にしなくなったというのをいつかネットで見た時は、流石に話が盛られていると思ったが、あながち間違っていなそうだとすすぎあらいは手持無沙汰に首の後ろを掻く。
アミダが闇オークションに度々顔を出している、という情報は既に裏が取れている。
これまで彼が、闇に流れたコウヤマ・フミノリの絵を数点購入しており、その中には”青花候”と同じく盗品が混じっていことも、調べが付いている。
ウタフジに返す為にUBAに赴いた、というのは十中八九、保身の為の嘘だ。
誰もそんなネタで脅しはしないのにと小さく溜め息を吐いて、すすぎあらいは矢継早に捲し立てられる詭弁を適当に聞き流す。
タマオカに恨みがあるアミダに彼を庇う理由は無いので、タマオカが”青花候”を落札したというのは事実と見て良い。だが、実際に絵が盗まれたか否かは未だ断定し難い。
あのオークションに顔を出していた者達は、言ってしまえば全員、盗品と知りながら”青花候”を求めた共犯者だ。誰が”青花候”を手にしても、盗まれたということにする。そう口裏を合わせていても不思議ではない。
互いに互いの命綱を握っている状態であれば、相手の失脚を望んでいてもその背を押せはしない。
「”青花候”を見付けた曉には、是非私に教えてくれ!私が責任を持って、ウタフジの元に送り届けよう!」
「…………」
――馬面のくせに狸だ。
そんな言葉を飲み下し、すすぎあらいは開店前のアトリエカフェを出た。