妖精殺し | ナノ


三十年前。当時、六歳の少年だった化重は、魔術議会の依頼を受けてアップルシードの討伐任務に当たっていた勾軒に救助された。

非魔術師家系の生まれでありながら、凄まじい魔力を持っていた彼は、四歳の時にアップルシードの構成員によって拉致され、その際、両親を殺害されていた。

それから二年間。勾軒がアップルシードのラボの一つを潰滅させるまで、魔女・毒喰苹果の指示の元、彼は”人工妖精”の被検体として、監禁されていた。


”人工妖精”とは、その名の通り人為的に造られる妖精のことであり、人間から造られる妖精である。高い魔力を持つ人間に妖精の血を入れ、彼等を人間から妖精に変容させる。それが”人工妖精”であり、苹果はこれを魔術的兵器として用いることを計画していた。

二百年以上の時を生き、そのうち百年もの間、議会によって封印されながら、彼女が枝を作り、自らの信者達と暗躍しているのは、魔術師の魔術師による魔術師の為の国家――魔術師帝国の建立が目的とされている。

世を忍び、闇に生きる魔術師達が人間を支配し、新たな種族として生物界の頂点に君臨する、魔術師の千年帝国。その世界の理を覆す、狂気の国を樹立する為には兵力が必要であると、苹果は様々な魔術的兵器の開発に着手しており、”人工妖精”もその一つであった。

彼女は、世界各地で素質のある子供達を誘拐し、彼等の体に強大な力を持った妖精の血を流し込み、人間を淘汰する兵器として運用せんと目論んでいる。その計画に巻き込まれ、”人工妖精”サラマンダーの一体となったのが、化重だった。


殆どの被検者は、体がエーテル化せず、人間としての形と心を失うだけに終わった。だが、彼はサラマンダーの力を制御し、人の形と心を残したまま、肉体のエーテル化に成功した。

まさに奇跡の子。サラマンダーに選ばれし者と、苹果は彼を祝福し、寵愛した。

斯くして化重は、”人工妖精”となり、後は肉体の完全なるエーテル化――サラマンダーになる時を待つだけだった。

勾軒に救出されなければ、苹果の兵器になるか、或いは、あの廃屋にいたサラマンダーのように、次の”人工妖精”製造に利用されていただろう。だが、彼は助け出された。たった一人、助け出されてしまった。


そのことで長らく塞ぎ込みながら、其処にいない魔女に怯え、膝を抱え続けていた化重であったが、見兼ねた勾軒が魔術を教えたことで、彼の日々は変わった。

落ち込む暇も、臆する暇も無い程に、魔術の習得と研鑚に努め、見違える程に逞しく育った彼はやがて、師と同じ幻想生物ハンターになることを志した。
自分と同じ”人工妖精”に出会った時、この手で彼等を終わらせてやれるように。自分と同じように魔女に苦しめられている誰かを救えるように。

それこそが、あの場所でたった一人生き残り、助かってしまった自分の行くべき道だと、化重は幻想生物ハンターになることを決めた。


これが彼の――魔術師・化重叶の始まりだった。


next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -