妖精殺し | ナノ


何もかもが赤かった。家を焼く炎も、床に広がる血溜まりも、その水源――悲鳴一つ上げることも出来ないままに斃れた、父と母の成れの果ても。何もかもが、悍ましい程に鮮やかな赤に染まっていた。


(お父さん!! お母さん!!)


その色に蝕まれた目蓋の裏には、未だ、あの日の惨劇が鮮烈に色づいている。

生まれ育った家が灰と化していく匂いと、足の裏を濡らす両親の血肉の感覚さえ褪せること無く。視界を塗り潰した赤色は、あの日、ただ立ち尽くしていることしか出来ずにいた彼を咎める。我が身を焼く、炎の如く。


(光栄に思いたまえ、少年。君は、あの御方に選ばれたのだ)

(あの御方の期待に応えられるよう、励みたまえ。ああなりたくなければ、な)


死を望む程の責苦を受ける日々から解放され、人並みの暮らしや平穏を取り戻しても。その傷痕は消えることも、癒えることもなく、耳元で囁くように知らしめる。


(ああ、ぁ…………あああああああああ!!)


お前は決して、逃れられやしないのだと。




「……………………」


酷く魘されていたのだろう。不穏な音を立てる心臓に起こされた化重は、荒い呼吸を整えんと深く息を吸い込んだ。

肺が焼けるような感覚がするのは、未だ悪夢の余韻が後を引いているせいだろう。瞬きする度にフラッシュバックを映し出す目蓋を引き千切りたくなる衝動を堪えながら、化重は痛みを訴える首筋に手を宛がう。


もう何度、あの光景を夢に見たことか。いい加減慣れてしまいたいと思う反面、忘れることなどあってはならないのだと、誰かに叱責されるような気がして、心底参る。


「…………クソ」


こんな時、決まって疼く傷が、ただただ厭わしかった。あの御方などと呼ばれていたものの所有物である証として残された、決して癒えることのない傷。それが焼けるように痛む度、化重の中でどす黒い炎が上がる。

怨讐と憤懣。尽きることのない激情を焼べながら、彼の全てを焼き尽くさんばかりに燃え盛る。そんな猛炎を彷彿とさせる化重の双眸は、暗がりの中で赫々とぎらつき、彼の眠りを妨げる。

それが安らかな時を与えまいとしているのか、恐ろしい夢から身を守ろうとしていたのか。答える者は、此処にはいない。


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