FREAK OUT | ナノ


きさらぎオーシャンスタジアム。プロ野球チーム、如月オーシャンズの専用球場。収容人員凡そ三万人の多目的野球スタジアムは今、無人であった。

今日は如月オーシャンズと喜多州ファルコンズの試合が行われる予定だった。
だが、来たる大侵攻を受け試合は中止。選手達は市民と共に、避難シェルターでフリークスの大群という嵐が過ぎ去るのを待っていた。


「俺さぁ、野球そんなに好きじゃないんだよね」


そんなオーシャンスタジアムを、好き勝手に使っているものがいた。

スタジアム内は依然、無人である。無許可で館内に侵入し、グラウンドに踏み込み、ルール無用の野球もどきに興じているのは何れも、人間では無かった。


「野球場は好きだぜ?屋台の飯は美味いし、ビール売ってるネーチャンもチアガールも可愛いし……。それがセットになってようやく見るに値する程度なんだよなァ、野球。何で皆、自分より高い年棒もらって美人アナウンサーと結婚する奴のこと一生懸命応援してるんだろうな」

「球場のド真ん中で言うことか、それ」


マウントに立つフリークスが、大きく振りかぶる。放たれたのは、人間の頭部。キャッチャーミット目掛け、凄まじい速度で抜けるストレート――と思わせてのスライダー。
鋭利な角度で下方へ落ちた打球。だが、バッターはその変化を予期していたかのように腰を沈め、掬い上げるようなスイングで珠を捉えた。

ゴギンと重い音を立て、ひしゃげた頭部が空に打ち上がる。文句なしのホームラン。ベンチのフリークスがワァワァと歓声を上げる中、擬態姿のまま座り込むそのフリークスは、この茶番は何だと言わんばかりの眼で、ウイニングランを決めて戻って来たバッターを見据える。


「人生に逆転サヨナラ満塁ホームランは無いってのは真理だよなァ。ああいうのは持ってる奴の特権だ。殆どの奴は、まずこのグラウンドに上がることすら出来ない。その中で真のスターになれる奴となりゃ、更に一握りだ。これは、そういう星の元に生まれてきたとしか言い様の世界の話だってのに、キムラヌートったら聞いてくれないんだもん。嫌になっちゃうね」

「……あいつらは十怪になれないという話か?ケムダー」


何処で拾ってきたのかも知れない野球帽をくるくると指で回しながら、ケムダーはご名答と言うように口角を上げた。


「未来視を使うまでもねぇ。アイツらは持ってるか否かで言えば後者だ。お前みたいに、なるべくしてなるってタイプじゃあない。其処に至る奴ってのは、丁寧に舗装された道を通らなくても辿り着けるモノなんだぜ」


此度の侵攻を仕掛けたのはキムラヌートだ。

”英雄”真峰徹雄率いるジーニアスの進撃により、十怪に二つも空席が出来ている現状を打破すべく、キムラヌートは≪花≫の中から選りすぐりの三体を人類避難区域に送り込んだ。何れも凶悪なまでに強烈な能力を持つ三体だ。”英雄”真峰徹雄さえいなければ、負けることはない。
その為に元ジーニアスの彼に離島調査のスケジュールからルートから、事細かに聞いていたのだ。全ては確実な勝利の為に、と。

だがケムダーから見れば、キムラヌートは最初から違えていた。


十怪とはなるべくしてなる者だけが至る境地。人類を害する厄災となる星の元に生まれた者だけが、その座に就く運命にある。

人に用意された道を行く時点で、彼等は脱落しているのだとケムダーは眼を細めて嗤う。


「さぁて、棒振り回すのも飽きたし、飲みに行こうぜ。たまには人間以外の肉を喰うのもいいモンだぜ」


この三年間、核を成長させる為に人間を喰い続けた。直に彼の核も開花を迎える。その時、欠けた十怪の席が一つ埋まることになるだろう。

前祝いとして、今日はパーっと飲みに行こうとグラウンドを後にするケムダーの半歩後ろを歩きながら、かつて砲河原祥吾であった男は、何処にあるかも分からぬ店の人間達に同情した。


「あ、でも今日は店開いてないか」


避難シェルターから戻ってみれば、店が盛大に荒らされているのだ。命あっての物種、とは割り切れまい。そんな薄ぼけた憐憫も、溜め息と共に消えた。人に心から同情出来る程、彼は人間が出来ていない。人喰いの獣に成り果てる、そのずっと前から。


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