FREAK OUT | ナノ
「お前、パイロキネシスって知ってる?」
「えっと……超能力、ですよね。こう、何も使わないで火をつけるヤツ」
「そう。唐丸忍は生まれつき、そのパイロキネシスが使えたんだと。アイツの能力は、先天性だ」
咥え煙草に火を点けると、ドリフトの男は人差し指を立てた。それを煙草の先端手前に宛がったのは、唐丸の真似だ。
唐丸にライターは必要ない。火を点けるのなら、指一つあれば事足りる。能力者として目覚める以前から、彼はそういう力を有していた。
「十二歳の時に覚醒したことで、元々持ってた能力の火力が向上。ちょっとしたボヤ起こす程度だった力が、フリークスを丸焼きにするまでに至った。神室の巫女達と同じ、アレは生まれながらのサイキックってワケだ。噂じゃ、ちょっとした予知も出来るって話だぜ。当人は、あくまで予測の範囲って言ってるらしいけどな」
「科学部で調べた所、生まれつき脳の作りが俺達とは違うらしい。妙に頭がキレるのも、そういうことなんだと」
「あのイカレっぷりもな」
「ハハハ」
紫煙を燻らせながら笑う一同を眺め、若手の隊員は静かに頷いた。
古来より意図的に超能力者を生み出さんと品種改良を重ねてきた神室の巫女達がサラブレッドなら、唐丸は突然変異だ。不世出の傑物。生得的な超人。この時代に生まれ落ちなければ埋もれる筈が無かった、真の能力者。それが唐丸忍という男なのだと、未だ見ぬ”放火狂”がいる如月のことを思惟した、その時。
「前方!フリークスの小隊発見!!」
ヘリコプターの操縦士が鋭く叫ぶと共に、機内の空気が変わった。
和やかな談笑から、素早く戦闘体勢に移行するや、一同は前方を行く飛行型フリークスの小隊を注視した。数は四、五体。何れも≪芽≫か≪蕾≫程度だ。
「上手いこと逃げてた奴らがいたみたいだな」
「見た感じ雑魚揃いだが……一応頼んだぜ、徳倉」
「あいよ」
若手の隊員の脇を「ちょいと失礼」と断って、大柄な男――徳倉が身を乗り出す。
その双眸でフリークスを見据えると、徳倉は人差し指で標準を定めた。
「刹那主義(モーメントコーズ)」
彼が呟くと同時に、フリークスの動きが止まる。すかさず、ヘリコプターに搭載された機関銃が火を吹き、フリークスは一匹残らず肉塊と化した。
「さぁ急ごう。俺らが着く前に、如月が火の海になってなきゃいいんだがな」
ヘリコプターや船での移動が多いドリフトに於いて、彼のような時間操作系能力がいるだけで部隊の生存率は大きく上がる。乗り物が攻撃を受ける前に、相手の動きを強制的に止めることが出来るからだ。
因果干渉系能力に次いで貴重。故に上層部で重宝され、昇進に有利とされる力を持ちながら、徳倉がドリフトに籍を置き続けているのは、その為だ。
曰く、自分は管理職より現場で動いている方が肌に合うとのことだが――出世よりも仲間を選んだ徳倉の志を、彼は敬慕していた。
「っと、悪い。そういやお前の親父さん、第三支部の所長だったよな、敬(たかし)」
「いえ、大丈夫っす。あの親父のことですから、心配ご無用です」