FREAK OUT | ナノ


同時刻、如月市街地前線。


「津辻副所長!」


顔を蒼白くして飛んで来た所員を見て、津辻はどちらだと身構えた。このどちらというのは、江ノ内・唐丸が死んだか、生きているか、だ。

目下、津辻の関心は其処にしかない。あの二人のどちらか、或いは両方が命を落とすことがあれば、それは第一防衛ラインの崩壊と同義である。

彼等を相手取って勝てるようなフリークスに対抗出来る能力者は、此処には居ない。
速やかに第二防衛ラインを放棄し、増援が到着するまでシェルターで籠城戦か、市民達を緊急避難という名目で撒き餌にするか――。


本件が唐丸の進言によって齎されたものであるが故に、津辻は自分が最も生き残れる確率が高い道を選べる。

自分は最後まで、如月での迎撃戦を反対していた。市民達の安全を訴え、戦場を変えるべきだと江ノ内に訴えていた。その上で引き起こされた悲劇だ。誰が自分を咎められる。

津辻がそのような算段を立てているとも知らず、斥候役の所員は震える喉で懸命に、海岸部の状況を伝えた。


「海岸部に≪花≫が三体出現。現在、江ノ内所長と唐丸所員が応戦しているとのことです……!」

「≪花≫が三体か……」


津辻の舌打ちが、江ノ内も唐丸も生きていることに対するものだと、誰が気付けたか。彼と共に第二防衛ラインに配置されていた所員達は、≪花≫が三体も現れたという報告に狼狽し、それ所では無かった。

津辻とて、想定外の事態に焦り、慄いている。だがそれ以上に、何故この状況であの二人は未だ生きているのだと嘆き、憤る気持ちが勝った。

十怪ではないとはいえ、≪花≫が三体も現れたというのに、江ノ内も唐丸も存命。普通、死んでいるだろう。最低、どちらか一人。
苛立つ津辻が海岸部へ顔を向けると、遠目からでも視認出来る程の火柱が上がった。唐丸の炎狂い(ピロラグニア)だろう。

相も変わらず、馬鹿げた火力だ。あれが相手となれば、≪花≫でも苦戦を強いられるだろう。少なくとも一体は、確実に焼殺される筈だ。


「さ、流石に応援に向かうべきでしょうか……幾らあの二人でも、≪花≫が三体もいては……」

「……いえ。我々は引き続き、この第二防衛ラインで待機します」


所員達は「まさか」という顔をして見せたが、津辻は極めて冷静に、状況判断した上での決断だと言い聞かせるように指示を出す。

忌み嫌う江ノ内と唐丸を見殺しにする、という訳ではない。正しくは、彼等が≪花≫と相討ちになるのを狙っているのだ。
口惜しいが、彼等の実力を以てすれば、敵も只では済まされないだろう。深手を負った状態であれば自分達でも討伐出来るし、本部の増援が来るまで時間稼ぎをしても良い。

何より、自分達が増援に向かって勝てる相手ではない。無闇に殉職者の数が増えるだけだ。暫くは様子見に徹し、状況の変化に応じて動くのがベターだ。

後手に回る権利を有しているが故の、贅を極めた選択肢。叶うなら、江ノ内・唐丸が≪花≫諸共死んでくれればと願いながら、津辻はそれを気取らせないよう振る舞う。


「≪花≫が三体相手となれば、討ち漏らしが出る筈……。その時、此処の守りが薄ければ一気に市街地に攻め込まれます。あちらから応援要請が来るまでは下手に動かず、守りに徹するように。本部からの増援もあります。焦らず冷静に、状況に応じて行動するように」

「りょ……了解!」


再び、火柱が上がる。まるで此方の期待を焼き尽くすような業火を一瞥すると、津辻は頬を伝う汗をそのままにビルの谷間を跳び抜けるように駆けた。


prev next

back









×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -