FREAK OUT | ナノ


先の討伐任務にて、戦場となった市街地が受けた著しい物的被害――その大部分が砲河原の能力に因るものであったが為に、大規模な市街地の破壊を何故防げなかったのか、残りの四人は何をしていたのかと統轄部で絞りに絞られ一時間。

あれだけ司令官らに怒鳴り付けられながら、もう昼過ぎになってしまったから食堂に向かおうと、一同は遅くなった昼食に取り掛かっていた。


「砲河原の場合、能力をコントロールする気が無いから強いとも言えるのではないか?私達が無意識下で押さえている部分を、砲河原は常にフルで出力している。あの破壊力の淵源は、其処にあるのかもしれないな」

「まともな思考を持ち合わせていれば、どうしたって制御するものだがな。こいつのそれは、たかがコップ一杯の水を注ぐのに蛇口を全開にしているのと同じだ」

「その言い方だと、祥吾のこと馬鹿って言ってるみたいだぞ、巧二」

「事実、そうだと言っている。あと名前で呼ぶのは止めろ、真峰」


テーブルを囲む四人――隊員の一人は所用の為、軽食を持ち帰って離脱している――の姿に、周囲がざわめき、どよめく。四方八方から向けられる視線や、飛び交う耳語を意に介さず、食事と談話を続ける彼等は精鋭部隊ジーニアス第一分隊のメンバーであった。

FREAK OUT始まって以来の超級能力者が集い、ジーニアス黄金世代とまで称された五人。


”英雄”真峰徹雄。
”教授”在津巧二。
”帝京最強の女”祗園堂楓。
”処刑人”蘭原統。
”拳王”砲河原祥吾。

一人一人が、FREAK OUTにその名を知らぬ者なしの能力者。それが四人も、と人々は眼を見開いているが、同じ部隊のメンバーであることを踏まえれば、彼等が一堂に会することは別段珍しくも無い。それでも人々は、自分達と同じようにただ食事を摂っているだけの彼等の姿に惑い、慄き、畏敬や憧憬の眼差しを向けては、その一挙一動を凝視している。

騒ぎを聞き付けたのか、食堂の出入口付近にはわざわざ余所から足を運んできた見物人まで散見している。仰々しいと内心辟易しながら、これを横目で睥睨すると、在津は存分に嫌味を込めた言葉を砲河原に向かって吐き捨てた。


「市街地戦に出れば町一つ消し飛ばす輩が同じ部隊にいるせいで、要らん苦労を掛けられているんだ。こいつに一欠片でも理性と知性があれば解決した問題が幾つあると思っている?」

「ハハハ!この間のアレは流石に参ったな!」

「どれだ」

「アレさ。砲河原が木端微塵にした飛行型巨大フリークスの血と肉が雨霰となって降って来たヤツ」

「あはは!アレはホント最悪だったな〜!町中血だらけで神室さんにめっちゃくちゃに怒られるし、お前らも責任取って掃除しろーって駆り出されるしで」

「笑ってる場合か!?あぁ、そうか。忘れていたが、お前達も頭のネジを何処かに落としてきた人種だったな」

「それよりこの間、巧……在津に選んでもらった服、華に似合ってるって褒めてもらえたんだ〜」

「わざわざ軌道を変えてまで心底どうでもいい話をするな」

「華…………あぁ、真峰のファム・ファタールか」

「街中で一目惚れしてから付き纏っているという女か」

「人のことストーカーみたいに言わないでよ!!あ、祥吾には見せたっけ?これね、世界一可愛い俺の華ちゃん」

「…………隠し撮りか?」

「だからストーカーみたいに言わないでってば!!ちゃんと許可貰ったよ!!…………撮った後で」

「うーん、ギリギリアウトだな!」

「楓ぇ!!」


呵々と快濶に笑う祗園堂、悲喜交々と忙しい徹雄、呆れて物も言えないと嘆息する在津をそのままに、砲河原は黙々とヒレカツ定食を食べ進めた。

砲河原にとって彼等は同世代の能力者であり、同じ部隊に配属された同僚。それ以上の感情は持ち合わせていなかった。否、そも其処に感情が発生しているとすら言い難い所だ。

砲河原にとって他人は、其処に居るというより、其処にあるという認識だ。彼等が如何に優れた能力者であろうと、砲河原には一般人はおろか、路傍の石と変わらない存在だ。
一応、人間として扱ってはいる。ただ、彼等の人となりや感情、生死に一切の関心が無いのだ。だから、自分の能力で彼等が迷惑を被ろうと何も感じない。

在津のように度し難い性分だと憤るのが自然だが、徹雄や祗園堂は砲河原の在り方を理解した上で、これを受け入れている。
それが何も生み出さないと知りながら、食事を共にしたり、会話に巻き込んだりすることに何の意義があるのか。一度尋ねてみたところ「何か意味ないのダメなの?」と返されたので、砲河原は「そうだな」の一言で片づけ、在るが儘に身を委ねることにした。

不必要な馴れ合いではあるが、向こうが此方に何も求めていない為か不快では無い。過剰に干渉されることも、何かを強要することも無いので、砲河原は気が向く限り、至極適当に彼等の対話に応じていた。


「はぁ〜、しっかし本当に可愛いなぁ。何食べて育ったらこんな可愛くなるんだろ……見てよ祥吾、この横顔。超可愛くない?」

「確かに顔は悪くないが、もう少し肉が欲しいな」

「やだもうサイテーーー!!!!なんてこと言うのよこのスケベ!!女の敵!!」

「何故オネェ口調になる」

「ハハハハハ!聞く相手が悪かったな、真峰」


徹雄が嬉々として見つめる待ち受け画面――デートの待ち合わせ先で盗み撮りしたという写真に写る女は、確かに可憐で美しい顔立ちをしていた。

透けるような白い肌、色素の薄い髪、長い睫毛に縁取られた大きな眼。成る程、徹雄が骨抜きにされるのも頷ける美人ではあるが、砲河原の食指は今一つ動かなかった。
皿の上にこじんまりと盛り付けられた名称不明の小綺麗な料理より、粗雑に盛られた焼いただけの肉の方がそそるように、女も食い応えのある方がいいというのが砲河原の所見だ。

デリカシーの欠片も無いコメントに徹雄がぷりぷりと憤る中、暫し静観に徹していた在津が口を開いた。


「この女、一般人だろう。しかも名前が華ときている」

「いや〜芸能人に見えちゃうくらい美人だよな〜。まさに高嶺の華って感じ?名は体を表すってまさにコレだよな〜」

「そういう話じゃない。…………付き合う相手は己の立場を弁えて選べと言っている」


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