FREAK OUT | ナノ


例え彼自ら否定しようと、貫田橋にとってそれは揺るぎ無いものだ。

敗北を知り、挫折を知り、絶望を知り――それでも立ち上がることが貫田橋が求め、焦がれる強さだ。完膚無きまでに心を折られようと、底の底まで落ちぶれようと、人々に蔑まれ嘲られようと、彼は地べたを這うように前へ進み続ける。

実力だけでは無い。二度と立ち直れないという所まで転がり落ちても、再び戦場へ歩み出す。彼がその強さを合わせ持つが故に、貫田橋は想う。雪待尋こそが唯一絶対の”帝京最強の男”であると。

その、揺るがぬ意志を湛えた双眸を暫し見つめていた雪待は、ややあって浅い溜め息を吐いた。


(弟子になりたい?俺の?)

(はい!オレ、徹雄さんみたいな能力者になりたいんです!)

(けどなぁ……俺と尋じゃ能力の系統がだいぶ違うし……。せっかく強い能力なんだし、そこんとこもっと伸ばしてやれる奴に)

(オレは徹雄さんがいい!徹雄さんじゃなきゃヤダ!!)

(分かった、分かった。いやー、責任重大だなぁ俺)


きっと自分も、同じような眼をしていたのだろう。

過ぎ去った日々は、失って尚、酷く鮮やかで眼が焼ける。自らの手で殺した輝きに眼を窄めると、雪待はまたも踵を返した。


「…………朝の九時から昼の二時までに掃除、洗濯、買い物、夕飯の仕度。日によってカマンベールの散歩、定期健診、トリミングの代行。それと報告書の代筆、経費とスケジュールの管理……」


面と向かっては言わない。背を向けている間は逃げ易いだろうと言うように、雪待は無理な注文を矢継早に投げ付ける。

どうせ、何処にも行ってくれはしないのだろうという確信めいた諦念を持ちながら。


「相応の給料は出す。……出来るか?」

「お任せください、雪待様!」


躊躇の無い返答は振り向くまでもなく喜色に弾んでいる。その”英雄”に触れた子どもめいた声が、胸に深く刺さるのを感じながら、雪待は行く。


自分は決して、彼のように在れない。誰かの期待に報いることも、誰かの夢に応えることも出来ない。その癖、”英雄”の真似事めいたことを止められないのだから質が悪い。

それを自覚しながら彼を拒まなかったのはきっと、いつか自分に引き鉄を引く人間を欲しているからなのだろう。


「もしもし、お兄ちゃん?……え、ハウスキーパーの人が来る?明日から?!な、なんでそんないきなり!?」


我乍ら、その浅ましさに辟易とする。


ふいに見上げた鈍色の空の果て。分厚い雲に霞みながら聳え立つ悪徳の樹に、その罪深さを嘲られた気がした。

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