FREAK OUT | ナノ
それから二年後。自分に憧れ、能力者になることを志していると手紙をくれたその子が、死んだ。
彼を殺したのは、人間だった。
嘉賀崎市内のとあるマンションに、フリークスが巣を作った。フリークスは住人に、このマンションに住む者には手を出さず、他のフリークスからも守ってやる代わりに、生贄を捧げろと命じた。
自分の存在を口外すれば全員殺す。この取引を拒んでも全員殺す。そう語るフリークスに対し、住人達の取れる選択は一つしかなかった。
差し出す生贄は一人。ただ一人の犠牲で全員が救われるのであれば、そうするしかないと誰もが己と隣人に言い聞かせた。彼一人を除いて。
(戦おうよ、みんな!だいじょうぶ、ぜったいFREAK OUTが助けにきてくれる!だから、みんなで戦おう!)
嗚呼、この子は駄目だと誰もが思った。
この子はきっと、此処に巣食うフリークスの存在を口にしてしまう。彼が妄信するFREAK OUTに、全てを告解してしまう。だから、彼が生贄になった。
「仕方ないじゃない。だって、皆殺されるかもしれなかったんだから」
フリークスの巣となった部屋には、異常に膨れ上がった肉塊があった。それは、小さい体では食べ応えが無いと嵩増しされた少年の成れの果てだった。
≪蜜≫の体液を過剰に注入されたのか、少年の体は皮膚が内側から張り裂け、剥き出しの肉は自重で骨を押し潰す程に膨れていた。
人の形を失い、それでも辛うじて生きている。生かされている。そんな我が子の姿を前にしながら、彼の両親が見せた顔は、心からの安堵だった。
「この子だって、本望よ。貴方に会ってから毎日毎日、自分もフリークスから人を守るんだって言ってたんだもの。……夢が叶って、よかったじゃない」
「こうなったらもう、助からないだろう。さっさと殺してやってくれ。これじゃ、生きてる方が辛いだろう」
自分達の為にこうなった我が子に、自分達の手で差し出した我が子に、どうしてそんなことが言える。
あの子が守りたいと願った人々の中に自分達がいると知りながら、どうして!!
「……やめろ、貫田橋」
「止めるな、慈島!!こいつらは……人間じゃない!!」
ただ生まれて、生かされて、漠然と死を望まれていた。
そんな自分にも、生まれてきた意味、生かされてきた意義があると思えた。誰かの為に戦うこと、それが自分がこの世界に生まれ落ちた理由だと思えた。
だが、この手で守った筈のものはあるべき形に還るように踏み躙られた。
何も救えてなどいなかった。何も変えられていなかった。何も、何もかも、意味など無かった。自分が、無意味で無価値な人間だから。
「それは」
「……貫田橋の辞表だ」
「じ、辞表って」
「……やはり自分には、能力者として生きることは出来ない、だそうだ」
それから彼は、フリークスを殺しては二束三文の金を得て、自暴自棄に日々を生きた。
己を擦り減らしていく内に、この世界から完全に消えてしまえるかもしれない、と。そんな薄味の希死念慮を啜りながら、貫田橋は亡霊のように這い回り、フリークスを殺していた。
彼と出会う、その時まで。