FREAK OUT | ナノ


貫田橋利正。彼の心をささくれ立たせたのは、物心ついた頃から不仲な両親と、彼等が見栄と体裁で形を保っている家族という枠組みだった。

父がいない時は母の口から父の悪罵が垂れ流される。母がいない時は父の口から母の悪罵が垂れ流される。そんな家族が嫌いだった。
互いに余所で男女の関係を持ち、時にそれを自分にひけらかしてくることが嫌いだった。家に帰ると、それらしい痕跡が残っていることがあるのが嫌いだった。
そのくせ外では、ごく普通の家族を演じているのが嫌いだった。

斯くして、歳の頃十三を迎える頃。荒みきった貫田橋は親も教師も警察も匙を投げる非行少年となった。
父も母も嫌悪の対象でしかなく、そんな二人の間に生まれ落ちたことすら腹立たしく、貫田橋はその怒りをぶつけるように荒れ狂っていた。


そして十四歳のある日、彼は能力に目覚めたことでFREAK OUTに身柄を引き渡されることとなった。

その時両親が見せた、心からの安堵の顔。早くそいつを連れて行ってくれと言うような表情を見て、彼は理解した。二人はきっと、自分が生まれた時からこの日が来ることを待ち望んでいたのだろう、と。

子どもという鎹が消えてくれたことで、ようやく自由になれた。そんな両親の顔を、彼は今も覚えている。


RAISEに入所してからも、彼の心は荒んだままだった。

能力者として生きるということは、人の為に戦うということだ。そんな生き方が出来る程、彼は人を愛せなかった。人を愛することが出来るのは、人に愛されたことがある者だけだ。両親にとって楔でしかなかった彼には、誰かを守るとか、世の為人の為だとか、そういう動機を持って戦うことは出来なかったのだ。


十七歳になる頃、貫田橋はFREAK OUT第四支部へ配属されることとなった。

入所から三年の間に、六度の脱走と数えきれない暴力沙汰を起こした彼が”島流し”となるのは火を見るより明らかだった。だが、貫田橋にとって行き着く先が何処であろうとどうでも良かった。

生まれた時から、自分の居場所はこの世界の何処にも無かったのだ。生き難いのは生まれつきだ。何処に居たって自分は息苦しくて仕方ないのだから、何処に捨て置かれても構わなかった。だから、いつも巡回と偽っては適当な場所に足を運んで、適当に時間を潰していた。この頃にはもう、逃げることさえ億劫になっていたのだ。


その日も貫田橋は、雑居ビルの屋上で何をするでもなく寝転がっていた。特にこれといった趣味も持たず、有意義に時間を潰す術を持たない彼は、いつもこうしていた。

目を瞑って、ただ時間が流れるのを待つ。時たま体を起こして適当に飲み物を口にしたり、煙草を吹かしたりして、また寝そべる。今日もまた、その繰り返しだと思っていた。


「うわぁああああ!!」

「フリークスだぁあ!!」


聞き慣れた悲鳴に、片目だけを開けた。どうやらビルの麓で、フリークスが出たらしい。
貫田橋は欠伸しながら体を起こし、ワープホールを開けた。速やかにこの場を離脱する為だ。

此処に居たことがバレると後々面倒なことになる。痕跡を残さず、別の場所に移動して、また無意義に時間を溶かしていよう。

人が何人死のうが関係ない。命を懸けて守るに値する人間など、この世に一人も居ない。
だからこの日も、誰一人として救わない心算でいた。親に撒き餌として使われた子供の声を聴くまでは。


「待って、お母さん……お母さぁん!!」


気付いた時には、フリークスを血の海に沈めていた。


何もかもが腹立たしくて、目に付くもの全てに食いかかっていた時のように、体が衝動で動いていた。

きっと理由など、後からついてきたものだ。

助けた子供が自分と同じ、生まれてきたから生かされていただけの存在だと本能的に悟った。それで同情した訳では無い。自分よりも手酷い捨てられ方をしたその子を憐れんだのでも無い。ただ、許せなかっただけだ。

自分を突き飛ばして贄とした母親に縋る子供も、我が子に一瞥もくれずに走っていく母親も。


「助けてくれてありがとう、お兄ちゃん!!」


また、他人事の世界へ戻ろうと思った。けれど、気の迷いで差し伸べたその手は知ってしまった。誰かの為に戦うというのは、思っていたよりも悪くないということを。

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