FREAK OUT | ナノ


「あーー、終わった終わったぁ!」


地面に座り込んで、うんと両腕を上げると、六岡は満面の笑みで懐からレーションを取り出した。

悪魔崇拝(サタニズム)が解除された今、彼の体は片腕、片目、何処かしらの臓器が失われている。
この状態で笑顔を浮かべ、真っ先に食事にありつこうとは。嬉々とレーションの包装を解く六岡を見遣りながら、御剣城は深く溜め息を吐く。


「いやー、中々厳しい戦いだったね!俺もう、お腹ぺこぺこ!!」

「腹より先に、満たすところがあるんじゃないか」

「あ、そうだった」


思い出したように、六岡はレーションを咥えたまま、ジャケットの内ポケットからシリンジケースを取り出す。それを片手で器用に開けて、中の注射器を二の腕に突き刺す。すると断面部から肉が盛り上がり、瞬く間に腕の形が形成されていく。

片腕が戻れば作業が楽になる。次は臓器、次は眼を、同じように補充していく。


見慣れた光景だ。だが、異常な光景だ。


注射器の中身も、それに適応した六岡の体のことも御剣城は知っているが、未だ受け入れ難い。

この人を外れた、まるでフリークスのような戦い方。六岡はこんな戦い方を何時まで続けられるのか。何時まで人間らしさを保っていられるのか。
”怪物”と呼ばれたあの男と同じように、その力の代価に失うものがあるだろうに。それを問い掛けたところで、彼はまともに答えはしないだろう。

すっかり戦闘前の姿を取り戻した六岡は、咥えたままのレーションを口の中に押し込んで至福の表情を浮かべている。


「さて、あとは所長待ちだね」

「また増援が来るかもしれないんだ。気を抜くなよ」


今の内に体力回復に努めるべきとは分かっているが、未だ腐臭立ち込める中、レーションを貪るのは抵抗がある。それでも命には代えられまいと無理に口の中に押し込むと、水分の無いショートブレッドに腐った血肉の匂いが纏わり付いて、いつまでの咥内に残る。

こんな状況で、よくおかわりまで出来るものだと御剣城が眉を顰めながら二口目を齧った、その時だった。


「……噂をすれば何とやら、なのだ」


宙を舞う黒い影。それが地面に打ち付けられる音を聴きながら視線をスライドさせたところで、ユウの言葉の意味を理解した御剣城が噎せた。


「いッ……慈島支部ちょ…………げっほ、ごほ!!」

「うっわぁー、危なかった。あともうちょい早かったら三連キャラかぶりするとこだった」


其処に居たのは、紛うことなき”怪物”、慈島志郎だった。

何故彼が此処に居るのか、理由はさっぱり分からないが、彼の機嫌が悪いことだけは一目で理解出来た。放り投げられたフリークスの死骸の、その惨憺たる有り様と、眼に映る全てを血に染めるような顔付きを見れば察しが付く。

共に本件に手出し無用と言われていながら、自分達が吾丹場に乗り込んでいることに憤慨しているのか。
まさか先程の、キャラ被り云々の話を聞かれた、という訳では無いだろう。そんな呑気なことを考えていられたのも、此処までだった。


「ちょっと待つのだ」


視界の端に映る路傍の石のように、此方に構うことなく歩き続ける慈島をユウが制する。
この先では、未だ唐丸がアクゼリュスと応戦中だ。

此処に来た以上、彼の目的がアクゼリュスにあることは明白。援軍として来た訳ではないことも然り。何にせよ、久し振りの強敵相手に唐丸が楽しんでいるところだ。邪魔立てするなとユウは腰を上げ、慈島を睨む。


「あっちで忍ちゃんがアクゼリュスと遊んでるのだ。邪魔は――」


反射的に、御剣城はユウの肩を引いた。

彼女の頭が食い千切られる。そんなイメージが脳裏を過って、体中から汗が噴き出した。


今の慈島は、話が通じる相手ではない。彼の歩みを妨げれば自分達も、あのフリークスと同じ末路を辿る。
その予感に従って、ユウを踏み止まらせようと肩を押さえる御剣城だが、ユウの方もこれ以上踏み込とうは思っていなかった。


彼の為なら自分の命など惜しくはない。だが、その使い所は今では無い。


申し訳ないが、今日は不完全燃焼のまま終わってもらおう。

肩を掴む御剣城にへらりと笑い掛け、ユウは如何にして御機嫌斜めの彼を宥めるべきかと巻き上がる炎を見つめた。

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