FREAK OUT | ナノ


(FREAK OUTでは、徹雄さんは殉職者として扱われている。だが、俺を始め”英雄”に救われた奴らが、あの人が必ず戻ることを信じ、慰霊碑を立てるのは彼の死が確かなものだと分かるまで待ってくれと嘆願した……。だから此処に、あの人の慰霊碑は無い)


黙れ。


(俺は、あの海の向こうで……まだ徹雄さんが戦っていると信じている。あの人は本物の”英雄”で、フリークスなんかにやられる人じゃないと……そう思っているからだ)


黙れ。


(俺は、あの人が必ず戻ってくると信じている。だから、徹雄さんが帰って来た時、君が元気な顔を見せてあげられるよう……俺は、君を守っていきたいんだ)


黙れ。


(…………一緒に、全てを終わらせよう、愛ちゃん)


黙れ。


(近くにいれなくても、離れていても……俺は、君と共に戦う。君一人に、全てを背負わせはしない。だから、二人で全てを終わらせて……もう一度、此処で暮らそう)


黙れ。

黙れ。

黙れ。

黙れ。

黙れ。


お前の無責任な言葉で、彼女がどれだけ傷付いた。

お前の語るその希望で、彼女がどれだけ苦しんだ。


「うぁあ……あぁあああああああ」


兄に忌避され、母を亡くした彼女にとって、彼は残された最後の家族だった。

彼のように在りたいと願い、苛酷な運命の中に身を投じ、その身に余る期待と重責を背負って此処まで戦い抜いてきた。きっといつか、彼の居る場所へ辿り着ける筈と、そう信じて。


「パパぁ…………パパぁぁあ……っ」


そうさせたのは、自分だ。化け物の肉を貪るこの口が、化け物の血を啜るこの舌が、彼女の背を押した。その先が地獄であるとも露知らず。


血が滲むほど拳を握り、歯が軋るほど切歯して、慈島はただ、蹲って泣きじゃくる愛を見ていた。

傍らで自分と同じように立ち尽くしている雪待が、己の呼吸を押し殺す。その音が聴こえるまでは。


「…………お前は知っていたのか、雪待」


駆り立てられるように胸倉を掴み上げた。雪待は微動だにせず、抗わない。

それが何を意味しているのか、問うまでもなく理解出来る。それでも、慈島は尋ねずにはいられなかった。そんなことがあって良い筈がない、と。


「お前は、あの日……徹雄さんと一緒に居た。徹雄さんの消失を上に報告したのもお前だ。お前は……全部知っていて、それを黙って……愛ちゃんを”新たな英雄”に仕立て上げようとしたのか」

「…………」


何故、否定しないのか。
何故、黙っているのか。
何故、抵抗しないのか。


雪待は口を閉ざしたまま、首を振ることも頷くこともせず、光を失った眼を僅かに逸らした。その瞬間、頭の奥が焼き切れたような感覚に見舞われて、慈島は握り固めた拳を彼の頬に打ち付けた。


「い――慈島さん!!」

「何とか言え、雪待!!お前は……お前は!!」


骨を打つ鈍い音に顔を上げた愛が、引き攣った悲鳴を上げる。その声に構うことなく、慈島は倒れた雪待の襟を掴み、何度も彼を殴打した。


十年前、”怪物”となった自分はジーニアスを下ろされ、侵略区域遠征任務に就くことが叶わなかった。

だから、共に彼に師事してきた弟弟子に全てを託した。自分の分までどうか、あの人を頼む、と。


――それが何だ、これは!!


混ざり合って名前の分からなくなった感情に駆られるがままに、慈島は雪待を殴る。仰向けのまま無抵抗を貫く彼の上に馬乗りになって、何度も何度も、彼を殴り殺す勢いで拳を振るった。

その身を裂かれるよりも痛ましい顔をした愛が、その腕にしがみ付いてくるまで。


「やめて、慈島さん!師匠が……師匠が死んじゃう……!!」


この時ばかりは、何故止めるのかと言ってしまいたくなった。自分も彼女を傷付けた張本人に違いないくせに、誰よりも傷付けられた筈の愛が雪待を庇うことを恨んだ。

行き場を失くした拳を握り締め、慈島は嘆願するような眼で愛を見遣る。雪待の虚ろを湛えた瞳はそれをなぞろうとして、宙を向いた。


「…………あぁ、そうだ」

prev next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -