FREAK OUT | ナノ


「ついに来たか、バチカルの野郎。思ってたより早かったな」


眷属に運ばせた椅子に腰掛け、ケムダーは遠視能力を持つフリークスが映し出す光景に口角を上げる。

残念ながらポップコーンは間に合わなかったが、急拵えのシアタールームとしては上々だ。能力コントロールの一環で作った、人間を加工して作った椅子を引っ張り出してきた甲斐があると、ケムダーは愉悦に眼を細める。


「あそこで二世ちゃんが出てきたから、匂いに引っ張られたんだろうな。喰われず済んだ奴等は撤退させてやるか。直にこの戦いも終わるしな」


その眼は、今と未来を同時に見据えている。彼はこの戦いの終着点を知りながら、其処に至る過程を楽しんでいるのだ。曰く「結末だけならネタバレにならない。大事なのはエンディングより其処に至るまでのドラマだ」とのことらしい。

彼が何を言っているのか、眷属達には理解出来なかった。だが、それ以上に理解し難いのが、あの黒い鎧姿のフリークス――バチカルだった。


「……一体あれは、何なのでしょう。ケムダ―様」


”無神論”のバチカル。それは全てのフリークスの頂点に立つ、最も強いフリークスだ。
かつてその名を冠するフリークスを、眷属達は知っていた。故に、先代バチカルを喰らい、”無神論”の座に就いたその魔物が、彼等には理解出来なかった。

かのフリークスは普段、侵略区域の岸で石像のように佇んでいるだけだ。だが時折、それは思い出したように飢餓感に狂い、目に付いたものを手当たり次第に食い散らかす。それも、喰らうのは決まってフリークスだった。


人間には眼を向けず、ただフリークスだけを食い荒らす災厄を喰らうもの。
十怪までもが恐れる最強にして最凶の存在――バチカル。


何故そんなものが生まれ落ちたのかと、眷属達が同胞の首を食い千切る魔物を畏怖する横で、ケムダーは気分だけでもとポップコーンバケツに入れたスナック菓子を摘まむ。


「お前、共食いモルフって知ってるか?」

「……?」

「カエルやトカゲの中には、同種の生息密度が高いと共食いに適した形の変異個体が生まれる。それが共食いモルフだ」


何処で知ったのかも、そんな知識を得ていたことすらも忘れていたが、初めてそれを見た時、殴り付けられたように思い出した。

増え過ぎた枝の剪定者。それこそ己のアイデンティティーと言わんばかりに、同族の血肉を啜る魔物。
共食いはモルフは、捕食対象を探すより近場に溢れた同族を喰らう方が合理的であるが故に生まれるというので、厳密には異なるが――喰われる側にとって本質など、どうでも良いことだろう。

チープな食感と過ぎたる塩気の菓子を粗雑に噛み砕きながら、ケムダーは粉末が付着した指を舐める。


「アイツはフリークスの共食いモルフみてーなモンだ。フリークスは肉固ぇし臭ぇし、喰ったところで核の足しにもならねぇから、よっぽど餓えてなきゃ共食いなんぞしねぇワケだが、アイツはストイックに同族の捕食を続けている。俺のガキと同じ、化け物の中の化け物だ」


純正か混じりものか。それさえ関係無い。あれらは等しく、人類の敵でありフリークスの敵だ。

この災厄に”新たな英雄”はどう立ち向かうか。此度の戦い、最大の見所は此処にある。


「さぁて、いよいよクライマックスだ。魅せてくれよ、”英雄二世”。ティッシュ傍らに見てるからよ」

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