FREAK OUT | ナノ


ジーニアス第二分隊が駐屯地屋上ヘリポートから出立した頃。FREAK OUT本部、第二会議室。今日は数ヶ月に一度の副所長会議が開かれていた。

凡そ二、三ヶ月スパンで行われるこの会合は、業務報告や意識調査、他支部との交流や情報交換を目的としている。会議内容は、管轄部が各支部の現状を把握すると共に、それぞれが抱える問題のフィードバック、指標の見直し、次の人事の参考などに役立てられており、より多くの声を取り入れる為にと、会議には副所長と所員一名が出席することになっている。
支部長や副所長からの指名を受けて来た、シフトの都合が良かったので出席させられた、自ら希望して来た等、随伴する理由は様々であり、顔触れが変わるのが殆どである。

それにしても、今回は知らない顔が多いことだと、事務椅子に踏ん反り返る嵐垣は口角を上げた。

「随分メンツが様変わりしたなァ。自己紹介から始めた方がいいんじゃねぇの」

「ガッキー、」


行儀も口も悪過ぎると窘めながら、芥花は何故よりによって、と肩を落とした。

第四支部、慈島事務所には副所長が在籍していない。フクショチョーはその名を冠してこそいるが、事実上の副所長では無い。というより、彼は副所長がいないのでフクショチョーという名前を付けられたのである。

慈島曰く、こんな零細支部で副所長をやりたがる人間も任せられる人間もいないので、諦めたらしい。
キャリア的にも実力的にも最も相応しいだろう徳倉は「俺は前科があるから」という理由でアウト。真面目で仕事も出来る太刀川は「過分なるお引き立てに肖り恐悦至極に存じますが、修行中の身ゆえ拝辞致しまする」という理由で断られたらしい。


流石にインコを連れて行く訳にも行かないので、こうした副所長の出席を求められる場では凡そ、芥花が副所長代理として出席している。
そして随伴にはいつも太刀川が選ばれているのだが、大侵攻にアクゼリュス捜索にと多忙を極めた結果、副所長会議のことを失念した慈島が、今日の巡回シフトに彼女を組み込んでしまった為、嵐垣を連れて行くことになった。

前にも一度、嵐垣を連れて副所長会議に出たことがあったのだが、他支部の人間と揉めるわ、会議中に寝るわ、聞き分けのない子供ばりに振り回してくれたので、いっそ仮病でも使って欠席しようかと思ったが、アクゼリュス来襲を控えた今、副所長会議を投げるというのは流石にまずいということで泣く泣く顔を出すことにした。

慈島が「帰りにこれで飯でも食ってこい」と昼食代を渡した為か、嵐垣は存外乗り気で此処まで来たが、やはり大人しくしていてはくれないかと頭を抱える芥花を追い詰めるように、向かいから嘲笑の声が上がる。


「島から来たお登りさんが何か言っているな。本部が余程珍しいのか」

「あぁ?!」

「まぁまぁまぁまぁ!すみません、うちの子ちょっと喧嘩っ早いもので……」


今にもテーブルを乗り越えて殴りかかりにいきそうな嵐垣を押さえつつ、芥花は向いに座る男――FREAK OUT第二支部副所長、駿河宵星(するが・しょうせい)に頭を下げた。

五月に上野雀で起きた十怪襲撃事件を受け、真峰誠人が新所長として就任すると共に、第二支部の人事は一新され、副所長も代替わりとなった。
駿河はジーニアス時代より誠人の右腕で、彼の副所長就任は、大方予想通りであった。しかし、随伴が錆村ではないのは想定外だと、芥花は頭を下げた勢いでずれた眼鏡を直しながら、くくっと声を殺して笑う結賀を見遣った。若手に経験を積ませようという考えなのか。はたまた、彼が副所長会議に関心を以て名乗り出たのかは分からないが、彼もまた嵐垣の神経を刺激しそうな手合いだ。

嵐垣の言った通り、今回の副所長会議は新顔が多い。第二支部は人事一新。第五支部は先の大侵攻で副所長二人を失った為、警備部の班長二名が出席している。
参加者の凡そ半分が初参加。いつも以上に張り詰めた会議になりそうだと芥花は小さく溜め息を吐いた。別方向から手が挙がったのは、その直後だった。


「時間が無いので、進めてもらっていいですか?アクゼリュスのせいで忙しいので、簡潔にお願いします」


淡々とした声でそう言い放ったのは、第一支部の随伴だった。一つに束ねた白い髪と、兎の耳に似た青いリボン、ぱっちりとした赤い瞳が特徴的な少女。彼女は前の会議でも見た顔であった。

その隣に座る男も――否、あれは顔と呼んでいいものかと、芥花が惑う中、それは照準器に似た頭を組んだ指の上に乗せる。


「急かしてしまって申し訳ない。うちの空良木はせっかちでね」

「あ、此方からもお願いします。この子、難しい話になると大人しくなるんで」

「おい」


からからと笑うその人は、第一支部副所長・鉄ヶ嶺頼久(くろがね・よりひさ)だ。
見た目にはフリークスに近いものを感じるが、彼はれっきとした人間であり、奇妙奇天烈な頭部も能力に因るものだ。何でも彼は、自分の顔が好かないという理由で、四六時中照準器頭で過ごしているのだと以前耳にしたことがあるが、真偽は定かではない。

その傍らで顔をむくれさせている少女は、空良木みつき(うつらぎ・みつき)。若くして第一支部エースにまで上り詰めた期待の星だ。


今回の出席者で顔馴染みと言えるのは彼等と、第三支部の二人だけだった。

第三支部は第四支部同様、副所長がいない。というのも、唐丸が支部長就任後、副所長という役職を撤廃してしまったから、と聞いたことがある。


唐丸が第三支部所長に任命されたのは十四年前。当時第三支部所長を務めていた江ノ内猛の昇進に伴い、二十歳という異例の若さで唐丸は新所長となった。
元ジーニアスというキャリアを以てしても異常なこの決定は、実の所、江ノ内による苦肉の策であった。

唐丸は兎角奔放で、命令無視は当たり前。上官の指示を聞くことなど皆無で、この問題児をどうしたものかと考えた末、いっそこれを頭に据えた方が楽なのではと、江ノ内は彼を第三支部所長に据えることを決めた。


口惜しいことに、唐丸は素行以外は非常に優秀で、彼が所長となってから如月市内のフリークス討伐数は急激に増大。また彼が考案した海岸線防衛システムにより、近隣都市のフリークス発生数が激減した他、面白そうだからという理由で発足した第三支部主催イベントも次々と成功。特に、フリークスの被り物をした職員と市民が、様々な競技で争う真夏の如月海岸ウォーターサバイバルフェスは如月市観光収入に多大な影響を齎し、一部市民から商業神として讃えられているらしい。

斯くして、お飾り支部長の筈であった唐丸の大躍進によって肩身が狭くなった当時の副所長は、何とか彼を蹴落とさんと画策するも大敗。この時、中途半端に偉い奴がいると面倒になると考えた唐丸は、副所長撤廃を決定し、今に至るという。


そんな訳で、あちらも第四支部と同じく、こうした場では副所長代理として選ばれた人間が出席している。

唐丸は気分屋なので、適当に指名を受けた者が顔を出すのが殆どだったが、近年の副所長代理は固定されている。信頼が厚いのか。はたまた、面倒だからと所員達から押し付けられているのかは分からないが、彼が優れた人材であることは確かだ。


「では、これよりFREAK OUT支部副所長会議を始めます。まずは各自、定例報告から――」


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