FREAK OUT | ナノ


「……という訳で、九日後、アクゼリュスが避難区域の何処かに出現することが予知された。各自、アクゼリュスに関する情報を入手次第、此方に報告すること」

「おいおい、それだけかよ」


アクゼリュス襲来まで、残り九日。

先の議決についての報告と、それを踏まえての業務方針について告げた五日市は、深々と溜め息を吐いた。案の定、唐丸に噛み付かれたので、辟易としたのだ。


「此処は波に乗って二体目討伐ってとこだろ?本格的に捜索すべきじゃねぇのか?」

「アクゼリュス捜索及び討伐は、ジーニアスが担当することになった。この件に首を突っ込むな、唐丸」

「ハッ。差し詰め、”聖女”の尻拭いを”新たな英雄”にさせようって魂胆か。二体目の十怪討伐、しかも元上司の敵討ちなんて、そりゃこれ以上となくドラマチックになるだろうよ。けど、こっちは防衛戦続きでいい加減溜まってんだ。そろそろ派手に暴れさせちゃもらえねぇか、五日市さんよ」


先の大侵攻、唐丸の担当する如月市は然したるフリークスの襲撃を受けなかった。数にしても、ランクにしても、だ。

本来それは喜ぶべき事案だが、唐丸はあろうことか、実に物足りない戦闘であったとフラストレーションを抱え、己の担当区域の手ぬるい侵攻を嘆いていた。吾丹場に十怪二体寄越すなら、一体うちに来ても良かっただろう、と口にする程度に。

如月市の防衛を担う第三支部長として、FREAK OUTの一員として有るまじき言動だが、唐丸忍というのはこういう男であり、それを承知で上層部は彼をこのポストに就かせた。
その思考も振る舞いも、度し難く、御し難い。だが、素行の悪さに眼を瞑っても余りある強さを有しているのが彼、唐丸忍だ。


十五歳でRAISEを卒業し、三年後にはジーニアス入隊。そして弱冠二十歳という若さで第三支部長に就任し、以後、如月市に君臨し続ける”戦火狂”。雪待がいなければ、”帝京最強”は間違いなく彼であったとされる程の実力者。戦闘の天才とまで称された男。

それさえ無ければ、今すぐにでも此処から蹴り出してやるというのにと、五日市が眉根を寄せたその時だった。


「……珍しく意見が一致したな、唐丸」


思わぬ所からの掩護射撃に、五日市はおろか、唐丸までもが眼を見開いた。

唐丸に同調したのは、慈島だった。彼は唐丸のように好戦的ではなく、必要以上の戦闘は回避すべきと考えるタイプの人間だ。が、逆に言えば必要とあらば何時までも何処までも戦おうとするのが、彼の性分であった。


「アクゼリュス討伐については、俺も異議あり、だ。……未だRAISEを出て一年も経っていない内に十怪と連戦なんて、無謀過ぎる。雪待が付いているにしても、だ」

「はぁ〜ん、そういうことね」


珍しく食い付いてくるので、何に其処まで駆り立てられているのかと興味を示していた唐丸は、くつくつと喉を鳴らして笑った。

アクゼリュスに因縁があるでもなく、先の大侵攻に物足りなさを覚えたでもない慈島が、どうして首を突っ込んできたのかと思えば、何てことない。彼は”新たな英雄”が気掛かりなだけなのだ。


雪待が傍に付いていようと、ジーニアスでの討伐であろうと、其処に愛がいることを、慈島は見過ごすことが出来ない。

カイツールとの戦いで、愛が能力行使の反動で酷いダメージを受けたことは、彼も知っている。既に調子を取り戻し、リハビリも終えているが、連続して十怪と当たることは彼女にとって大きな負担になる。


――今度こそ取り返しの付かないことになるのではないか。


それを危惧して、慈島は唐丸に乗って、アクゼリュス討伐を此方で引き受けんとしたのだが。


「これについては、俺も同意見だ」


此処で更に、誠人までもが同意を示したので、これには慈島も些か面食らった。

無論、誠人が妹の身を案じて、なんてことは無く。彼が名乗りを挙げたのは偏に、愛がこれ以上の功績を打ち立てることが気に入らないから。この一点に尽きた。

カイツールに続き、アクゼリュス討伐にまで貢献したとなれば、彼女の隆盛はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いとなることだろう。”英雄”の名を冠した父のように。それだけは断固容認出来ないと、誠人はアクゼリュス討伐に名乗り出た訳だ。


「あれが出るまでもない。次は俺がやる」

「ハハッ、対抗心剥き出しかよ。いいねぇ、そういうギラギラ感。嫌いじゃねぇ」


涼しげな顔をしているが、その実、この場にいる誰より誠人は激情家の質である。栄誉や名声に人一倍執着し、自らを脅かすものを徹底して排斥し、己の力を誇示することに貪欲だ。
真峰徹雄の子として生まれながら、”英雄”の名を継ぐことが叶わないと見做され、挙句、妹にその座を奪われた”英傑”。その胸の内には、さぞどす黒い炎が燃えているのだろうと、唐丸は酷く愉しそうに笑いながら、五日市の方へ顔を向ける。


「そういう訳だ、司令官殿。此処は一つ、アクゼリュスは見付けたもん勝ちってことでどうよ」

「……勝てるつもりでいるのか?”残酷”のアクゼリュスを相手に」

「「無論」」

「当〜然」


図らずも、言葉が被った慈島と誠人が、またしても同時に眉を顰めるのを見て、堪え切れず潔水が吹き出した。

笑っていられる状況ではないのだが、此処まで張り詰めているといっそ可笑しくなってしまうものだが、唐丸が無遠慮にケタケタ笑うので、潔水は軽く咳払いをした。慈島と誠人より、五日市が睨みを利かせてきた為だ。

潔水はアクゼリュス討伐に参加する気は無い。五日市の言う通り、通常業務の傍ら、彼女に纏わる情報が入ればそれを報告するだけの心算でいる。だが、支部長の四人中三人が、五日市に背き、アクゼリュス討伐に取り組む姿勢となると、他人事顔もしていられない。

此処に在津か栄枝のどちらかがいたのなら、こうも肩身の狭い思いをすることも無かっただろうに。

二人の死をろくに悼まなかったツケが来たなと嘆息した潔水であったが、その溜め息は、より大きな嘆声に塗り潰された。


「…………いいだろう。どうせ、此方が何と言おうと勝手にやる心算なのだろう」


何を言ったところで、大人しく引き下がるような面々ではない。説得するだけ時間の無駄だ。
それに、アクゼリュスの首を獲るのは誰だって構わないのだ。慈島達が通常業務を全うした上で、討伐に意欲的に取り組むと言うのなら、止める理由は無い。

苦心惨憺するのは彼等であるし、各自、己の首を好きなだけ絞めるがいいと、五日市は研ぎ澄ました刃の如き眼差しで、一同を見据える。


「ただし、大口を叩いたからには、確実に奴の首を獲れ。取り逃がした暁には……分かっているな」

「そん時は全員全裸で侵略区域にカチコミしてやるよ」

「……それはお前一人でやってくれ」

prev next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -