FREAK OUT | ナノ


――同日。FREAK OUT本部、特別会議室。


「カイツールが倒れ、残る十怪は九体」


モニターに映し出されたリストを前に、FREAK OUT司令官達は重々しく息を吐いた。


十怪討伐。その偉業を何時からか、偉業として受け止められなくなったのは、絶え間なく望みが潰えていく為だろう。
一体倒しても、次の≪花≫がその名を冠し、新たな絶望として君臨する。もう何年も、何十年も、その繰り返しだ。たかが一体倒したところで、という想いが生まれるのも致し方ないと言えよう。

それでも、これまで倒されることのなかったカイツールが討たれたことは喜ぶべきであると、司令官達は自ずと曲がっていた背中を伸ばし、俯きかけていた頭を上げる。


「直に新たなフリークスがカイツールの座に就くだろうが……不動であった”醜悪”の座が動いたことは大きい」

「この調子で他の十怪も倒してくれれば、侵略区域奪還も夢じゃないんだけどねぇ」


次のカイツールの選定が何時行われるのか、どのフリークスが選ばれるのか、何一つとして分からない。だが、≪花≫の数にも限りがある。一体一体着実に削っていけば、侵略区域奪還も夢ではないだろう。

尤も、それも次の≪花≫が生まれるまでに果たされればの話だ。一気呵成に畳み掛け、クリフォトを撃滅し、フリークスを根絶する。それが出来ない限り、これまでと同じように一進一退を繰り返すだけ――否、これまで通りなど何時までも続いてはくれない。
最低の現状が、より最悪の道を辿ることになる日は、今にだって訪れる。

だからこそ、カイツールが倒された今、この勢いに乗じて次の十怪が討伐されてくれればと、司令官達が十怪リストを眺める中。ただ一人、諦念に拉がれることのないその人の、力強い声が響いた。


「倒すとも」


声の主は、神室のものであった。

此処にいる誰よりも、帝京に生きる者の誰よりも絶望を知っている筈の彼だけが、期待も希望も打ち捨てず、確信を抱いていた。
それは、今のFREAK OUTを担う戦士達への信頼から来ているのではない。無論、盲目的に明るい未来を妄信している訳でもない。彼はただ、知っているだけだ。十怪の首を獲るに足る人間の性と、咎を。


「”英雄二世”の為に、雪待はどんな手を使ってでも誓いを果たす。それに……アクゼリュスは奴にとっても因縁深い相手だ。近い内に奴の首を取ってくるだろう」

「……どうだか。一度ならず二度までも、奴はアクゼリュスを取り逃がしている。今更期待出来るのか」

「江ノ内司令。君、未だ雪待尋のこと根に持ってるんだねぇ。あれは時期が悪かっただけで、君のとこの娘さんとの縁談が嫌だったとかじゃあないと思うよ、うん。俺だったら断るだろうけど」

「黙れ古池!!それ以上口を開いてみろ、二度と物が言えぬようにしてくれる!」

「落ち着け、江ノ内司令。古池司令も、徒に煽るんじゃない」


青柳に宥められ、両手を合わせて「ごめんごめん」と形だけ詫びる古池に、江ノ内が一層額に青筋を浮かべる様に、五日市は頭を抱えた。


予てより、特別部隊を統括し、特にジーニアスに力を入れていた江ノ内は、”英雄”をも凌駕する”帝京最強の男”雪待を甚く気に入っていた。

彼こそ次世代のFREAK OUTを担う男であると、眼に見えて雪待を贔屓していた江ノ内は、自身の家督とポストを譲り渡すことを視野に、一人娘との縁談を設けようとした。
だがその直後、雪待は遠征任務放棄により第四支部へ”島流し”となり、剰え、FREAK OUTを辞めてフリーランスとして我利私益を貪るようになった。

これを、目にかけてやっていた自分への裏切りとし、以後、江ノ内は雪待を嫌厭するようになった。可愛さ余って憎さ百倍、というやつだ。

だが、雪待は江ノ内の娘との縁談が嫌で道を外れた訳ではない。古池の言う通り、時期が悪く、間が悪かったのだけのことで、其処まで毛嫌いしてやるなというのが古池の意見である。
縁談が上がるのがどのタイミングであっても雪待は断ったに違いないが、それを口にすると余計拗らせるので、言葉にするのを止めたのも、そういうことだ。

ちなみに、古池が「俺だったら断る」と言ったのは、江ノ内の娘に問題があるからではなく、江ノ内が義父になるというのが想像するだけで気が滅入るからである。その含蓄に気付いていないのは、当の江ノ内だけだろう。自分が雪待の立場にあったなら同じ理由で断っていただろうと、青柳や五日市が心中で頷いていることなど露知らず、江ノ内は椅子を破壊せんばかりの勢いで席に戻る。未だ、怒りが治まらないのだろう。怒髪天を衝く形相で此方を睨む江ノ内を横目に、古池は自ら逸らした話の軌道を戻した。


「それで、アクゼリュスが再び此方に現れるっていうのは本当なのかい?兵房くん」

「えぇ。日和子様の予知によれば、十日後、かのフリークスは必ず現れる、とのことです」


日和子が能力行使の負荷で体調を崩している為、此度の会議に代理として出席している兵房が、モニターを切り替える。


そも、今回司令官達が集まったのは、日和子がアクゼリュスの再来を予知した為であった。

現状確かなことは二つ。アクゼリュスが再び避難区域に姿を現すのは十日後であるということ。これがアクゼリュスを倒す最大の好機であるということだ。


アクゼリュスは代替わりこそしているが、実に長い間、その座に君臨している個体だ。カイツールに続き、彼女を討伐出来れば、侵略区域奪還は一層現実味を増す。此処でアクゼリュスを迎え撃たない手は無い。


「場所の特定までは難しいか……」

「再予知可能な範囲まで日和子様が回復するのを待つより、此方でアクゼリュスを探した方が賢明だろうな。十日後に現れるのであれば、そろそろ潜伏している頃だろう」

「しかし、何の為にアクゼリュスは此方に……。やはり雪待が狙いでしょうか」

「そうであれば都合がいい。捜さずとも、向こうから来てくれるのだからな」

「まぁ何にせよ、雪待くんにやってもらうしかないだろうね。第五支部がおじゃんになったお陰で、皆それどころじゃないだろうし」


雪待とアクゼリュスは、互いに不倶戴天の敵である。しかし先の大侵攻、吾丹場で対峙した両者は、ケムダーの介入によって衝突することなく終えた。

カイツールのお礼参りも兼ねて、雪待を狙って来る――というのも考えられなくはないが、化け物の考える事はどれだけ熟慮したところで分からない。


だが、狙いが雪待であっても雪待でなくとも、現状アクゼリュス討伐を任せられるのは彼くらいだ。
第五支部崩壊により、各支部の負担は大きくなり、ドリフトも復興作業や海岸線防衛に追われている。それに、相手は十怪だ。戦力面も考慮するに、過去にアクゼリュスに大きな損傷を与え、撤退にまで追い込んだ雪待が適任だろう。

ちょうど、二日後に”新たな英雄”と共々ジーニアス配属となることだし、アクゼリュス討伐は其方に任せるのがベターだろうと意見は纏まった。


「全く、在津や栄枝がやられて、慈島や唐丸がしぶとく生き残っているとはな……。憎まれっ子世に何とかとはこの事か」

「そういうこと言ってると、次は真峰くんか潔水くんがやられちゃうよ」

「古池、お前はまた縁起でも無いことを……」


斯くして、対アクゼリュスに関する談合は終わり、会議は次の議題へと移った。

そして翌日――。

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