FREAK OUT | ナノ


慈島志郎という存在が認知されたのは今から二十八年前。彼が六歳の時である。


彼は生まれてからその日まで、母親と二人で暮らす、古く狭いアパートの一室に閉じ込められていた。

何故自分が外に出ることを許されないのか。それすら疑問に思わない程、彼は外の世界を知らなかった。

彼が知っていたのは、母がいない時間の孤独感と、理不尽に受ける折檻の痛みと、コンビニ弁当やインスタント食品の味。それと、床の冷たさだ。


仕事や、交際相手との衝突で生じたストレスをぶつけられながら、彼はいつも考えていた。

いつか何かの拍子で命を落とすか、母が自分を捨てるまで、ずっとこの暮らしが続いていくのだろうと。


どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか。どうして自分には父親がいないのか。そんな疑問を持つことさえ出来なかったのは、それが彼にとって当たり前の事だったからだ。

この狭い世界で、何かが途絶えるまで母に嬲られる。自分はそういう風に出来ているのだと、彼は全てを受け入れていたが――終幕は、彼の予期せぬ形でやってきた。


(あ゛、あ……あ、あ゛ぁっ!!)


眼の前で生きたまま爪先から食われていく母親を見て、幼い慈島は何が起きているのかと呆然としていた。


母が何度か連れ込んで来ていた男が、いきなり彼女を突き飛ばして。尻餅をついた母が文句を言おうと口を開いた瞬間、男の顔が縦半分に割れた。

そして、凍り付いたまま動けない慈島の前で、人の皮を被っていた化け物は、母親を喰らった。


慈島は瞬きする事も忘れ、腹まで喰われた母親を凝視した。そして、彼は悟った。母の次にあれに喰われるのは自分だ、と。

あの化け物が何者で、何故母親が食われているのか。何一つ分からない彼でも、理解出来た。時折此方を見遣っては、金色に光る眼を細めてニタリと笑うそれが、自分を見逃す筈がない事を。


まさかこのような形で母に嬲られ、飼い殺される日々が幕を閉じることになるとは――何も知らなかったが故に、彼は想像すらしていなかった。

母が化け物に喰われる事も。この窮地から、自分を救い出す人間が現る事も。


(……遅れて悪かった)


扉を蹴破って現れたその男は、一瞬の内に化け物を屠り、血溜まりの中から慈島を救い出した。

黒いコートを身に纏う、隻眼の男は何者なのか。あの化け物は何だったのか。
分からない。それでも確かなのは、自分が彼に救われたという事だった。


(さっき、近所の人から通報があって……。もっと早くに来てたら、お前の母ちゃんは…………本当に、すまん)


彼は生まれてからその日まで、母親と二人で暮らす、古く狭いアパートの一室に閉じ込められていた。

何故自分が外に出ることを許されないのか。それすら疑問に思わない程、彼は外の世界を知らなかった。

彼が知っていたのは、母がいない時間の孤独感と、理不尽に受ける折檻の痛みと、コンビニ弁当やインスタント食品の味。それと、床の冷たさだ。


だがこの時、彼は生まれて初めて、この世界に救いと、温もりがあることを知った。



斯くして、当時六歳の慈島はFREAK OUT精鋭部隊ジーニアス所属の能力者、真峰徹雄によって救助された。

この時初めて世間にその存在を知られた慈島志郎は、母親に監禁され、虐待を受けていた所をフリークスに襲われた、哀れな少年としか認識されていなかった。


だが十数年後。とある事件を切っ掛けに、慈島と、その周囲の人々は知る事となる。

彼が、十怪と称されるフリークスの一体・ケムダーの息子にして、この世にただ一人の半人半フリークスであると――。


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