FREAK OUT | ナノ


「な――」

「ミ、ミッションクリアだと?!」


ブザーと同時に、ふぅと一息吐いて翼を消し去った愛は、未だフィールドのほぼ真ん中にいる。

だのに、どうしてミッション終了のアナウンスが流れてきたというのか。


「馬鹿な……いつの間にとか、そういう話じゃあないぞ、これは!」

「真峰はまだ、市街地のド真ん中だ。救護テントに向かったのは、疑似フリークスを追い掛けていた時だけ……いや、まず目標の人形に近付いてさえいないのに、何故……」


よもやバグでも起きたのではと、誰もが救護テントを映すに目を向けた。

モニターは、実習中の訓練生をメインに映し、無人状態の場所は端に表示される。
当然、救護テントの映像も隅の画面に映し出されて――と、総員が眼を向けると同時に、声にならない声を上げた。

それを一人、くつくつと笑いながら、流瀬は意気揚々と救護テント前に向っていく愛の姿に目を細めた。


「忘れたか。これは班実習。真峰は一人ではなかっただろう?」


愛の動きがあまりに派手だったのもあるだろう。
だから、誰も見向きもせず、気が付くことが出来なかった――否、ちらりと眼を向けて見たところで、誰が気付けたか。

周囲の景色に溶け込む迷彩。近付いて見なければ、其処に人がいるなど思いもしないだろう。
能力を解除したことで、ようやくその姿を現した彩葉に、訓練生も教官も眼を見開いた。


「お疲れ、彩葉ちゃん」

「わ、私なんか何も……愛ちゃんこそ、本当にお疲れ様!!」


合流した愛とハイタッチを交わす彩葉。その傍らには、彼女の背中から降ろされた標的の人形が座り込んでいる。

それで、人々はようやく何が起きていたのかを概ね理解した。


「綾野井……まさか、彼女が救助を?!」

「そうか。ずっと姿が見えないと思っていたが……視させていなかった、ということか」


モニターに全く見られなかった、という時点で疑念を抱くべきだった。

彩葉に注目することもないだろうという思い込みと、愛の突飛な行動で、すっかり彼女の存在が抜け落ちてしまっていたが、真に注目すべきは此方だったのだと、教官達は感嘆する。


「彼女の能力は、一人十色(ディスカラー)。物に色をつける能力。それを自らに使うことで、周囲に溶け込む迷彩を作り、疑似フリークスから身を隠しながら移動。救護テントまでも同様に……今度は、民間人ごと迷彩化したのか」


愛が疑似フリークス討伐に徹していながら、救護が完了していた謎は、これで解かれた。

だが、未だ残る疑問は多く、訓練生達も教官達も、狐に抓まれたような感覚が抜けきれなかった。


「しかし、目標は倒壊した家屋の中だ。綾野井では瓦礫をどかすのに時間がかかるし、何よりあそこには門番として疑似フリークスを……」


仮にもし、彩葉が一人で疑似フリークスを蹴散らし、倒壊した家屋を攻略するだけの力を持っていたのなら、この偉業とも言えるクリアタイムにも頷ける。

が、彩葉はクラスきっての落ちこぼれ。目標の前に鎮座している疑似フリークスを切り抜け、人形の待つ場所まで行く手を阻む瓦礫をどうにかするにも、非常に時間が掛かるだろうに。
一体どんな魔法を使えばこんな――と考え始めたところで、数人の教官が気が付いた。


「まさか、あの時……」

「一見無駄なエネルギーを消費しただけに見えた真峰の必殺技……あれの狙いは、目標への障害である疑似フリークスと瓦礫を片付けることだったのか」


悪手だと言われた、愛の大技。あれは、疑似フリークスの一斉掃射と共に、彩葉の行く手を阻むものを消し去る為にあった。

技の派手さと、三百六十五度に渡り攻撃が飛散していた為、誰も気付かなかったが。あの時、愛の周辺と共に、目標家屋の前も片付けられていた。


そう。彼女がわざわざ飛び上がったのも、翼を大きくしていたのも、より精確に的を狙う為、攻撃の射程を広げる為だったのだ。


「だ、だが、いくら空に浮いていたとはいえ、あの位置からでは門番の精確な位置までは」

「……真峰。悪いが、今回の作戦について解説願えるか?」

「はい!」


一つ一つ疑問を上げていくより、こっちのが早いだろうと、流瀬は愛をモニタールームまで呼び戻し、解説させることにした。

彩葉と二人で、蘭原班を圧倒する成果を上げた。その秘訣は何であるか。
愛は、待ってましたと言わんばかりに、彩葉の手を引きながら、スキップで訓練室を出た。


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