FREAK OUT | ナノ
眼が覚めた時には自覚していた。
この体はもう既に、人のものではないことを――いや。最初から自分は、人ではなかったのだということを。
(検査の結果、今の君の体から、フリークス反応が検出された。だが……それは全体の五十パーセント程度……。つまり、君の体は半分が人間、半分がフリークスである、ということだ)
未だに信じられない、というような顔でそう語る医療部スタッフを前に、俺は、ああ、やはりそうだったんだなと思った。
それまで、自分自身でさえ気付かぬ内に飲み込んできたけれど。何もかも、ただの悪い予感や、気のせいで済ませてきたけれど。
他ならぬ俺が、一番理解していたのだ。俺は、化け物の子。全ては、母の言う通りだったのだと。
(長らく君の父親は不詳だったが……これではっきりした)
(前々から顔立ちが似ているとは言われていたが……こうなった以上、赤の他人ではないだろう)
(この男は、恵美忠実(めぐみ・ただよし)。元FREAK OUT所属の能力者で……今の名は、十怪のケムダーだ)
(こいつは人間の女性と交わり、苗床を作るフリークスだ。……念の為、君の母親について改めて調査してみたが……こいつと一緒にいるところが何度か目撃されていたそうだ)
(君の父親は、ケムダーで間違いないだろう)
そうだろうなと、受け入れることしか出来なかった。否定出来る理由が、一つも無かった。
いよいよ、認めなければならない時が来た。それだけのことなのだと、抗う気にもなれなかった。
(上は今、君の処遇について話し合っている。……真峰氏が必死に君を庇おうと総司令官に掛け合っているそうだが……どうなることか)
俺は、”怪物”。化け物の子。
生まれながらに人の輪を外れ、人であることを望めない。この世界にただ一人の、半人半フリークス。
決して覆すことの出来ない、生まれながらに決定していた事実が、ようやく顔を出してきただけのこと。ただ、それだけだ。
(聞いたか、慈島志郎の話)
(ああ……。今度出来る新設の支部に左遷されることになったらしいな)
(半人半フリークスなんて生かしておいていいのかよ)
(あいつ、いつ人間を食うか分かったもんじゃないぞ)
(だから腕利きの厄介モンを集めてんだろ?”怪物”が暴走した時、それを止められる可能性があって……尚且つ、死んでも困らないような奴等が、さ)
最初から、何もかもがどうにもならないことだったのだと思えば、全てを受けいれられた。
”怪物”の体も、ジーニアスからの左遷も、変貌した人々の視線も、これから自分が辿る道も。
これまで長く、いい夢を見て来られただけのことと考えれば、狂わずにいられた。こうなる運命だったのだと諦めれば、まともでいられた。
(ごめんなさい、志郎くん……私のせいで、こんな)
(それにあの子……貴方のことを)
(……いいんですよ)
母が子守り歌のように聞かせてきた言葉は、正しかった。
悪いのは、俺だ。
人間としても、化け物としても不完全な半端者として生まれてきてしまった。その存在そのものが、俺の罪。
悪いのは、俺だ。
俺が悪いから、仕方ない。だから俺には、己の不幸を嘆く権利も、襲い来る理不尽を憤る権利も無い。
だから、だから、だから。
(その方が、きっと愛ちゃんにとっても幸せです。……化け物を喰った”怪物”のことなんて、忘れた方がいいに決まってます)
どうか彼女を、責めないでほしい。彼女が人として生きる道を歩むことを、許してほしい。
(だから、謝らないでください、華さん。俺は……いつか必ず、こうなる運命だったんですから)
悪いのは全て、”怪物”として生まれ落ちてしまった、俺なのだから。