FREAK OUT | ナノ


「……ふぅー」


流瀬から渡されたボトルの中身を呷り、顔の角度をそのままに、ベンチの背凭れに身を預ければ、燦々と降り注ぐ陽射しを肌に感じた。

日に日に強くなっていく陽光が、時間の流れを語る。
もう、夏になるのだなと、愛は少し汗ばむような陽気の中で、眼を細めた。

こうして中庭のベンチに腰掛けて、切り取られたような空を見上げているのも、あと少し経てば、厳しくなるだろう。
此処は時間帯によって殆ど人が立ち入らない為、落ち着けるのだが――流石に、真夏の日光に曝される中、何分も居座れない。
暑さが本格的になる前には、休憩を必要とせずに特訓出来るようになればいいのだけれどと、愛はもう一口、ボトルの中身を呷った。

酷く喉が渇くのは、暑さのせいだけではない。これもまた、力を使った代償だ。
先程流瀬が言った通り、出力を調整出来るようになり、体も次第に能力慣れしてきたことで、負担が軽減されたとて、発現のコストはゼロになってはいない。
どれだけ少量でも、使えば使っただけ、力の対価として、この身は削られていく。
嫌に渇きを覚えたり、鼻血が出たりするのも、これ以上は力を使うなと、体が打ち鳴らしている警鐘なのだ。
それを、軽んじれば本末転倒の結果を迎えることになる。


「……早く、強くならなきゃいけないのになぁ」


結局自分は、覚醒しても、コントロールを得ても、もどかしい想いを抱え続ける宿命にあるようだ。

愛は、何処までも澄んだ青空を仰ぎながら、自分がこの下を闊歩していけるようになるのは、果たして何時になることかと、息を吐いた。


(近くにいれなくても、離れていても……俺は、君と共に戦う。君一人に、全てを背負わせはしない。だから、二人で全てを終わらせて……もう一度、此処で暮らそう)


今もこの空の続く先で、彼は自分を待ちながら、戦っている。

それを想うと、頭では分かっていても、どうしようもなく気持ちが急いてしまって。愛は、微かに痛む胸元を握った。


「……慈島さん、」


聞こえる筈もない。それでも、呼ばずにはいられなかった。

身を削りながら”英雄”への道を辿る日々に生じる、あらゆる苦痛や憂鬱を取り除いてくれるのは、彼の面影ただ一つ。
だが、それさえあれば愛は、何だって出来る気がした。


「…………よし。もう少し休んでから、戻ろう」


目蓋を下ろせば、僅かに陽が透けた闇の中に、彼の姿が浮かぶ。

あの、とても広く大きな背中。手を伸ばして触れたら、彼はきっと、驚いた顔をして振り返るだろう。
それから、どこかぎこちない笑顔を浮かべながら、両の腕で自分を迎え入れてくれるだろう。

そんな日が、出来る限り早く訪れるよう。回り道でも着実に歩いていこうと、愛はベンチに身を横たえて、意識を手放した。


刹那。近いようで遠い何処かから、あの鳥の鳴く声が聴こえた気がしたが、愛にはそれが、夢なのかどうかさえ、よく分からなかった。


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