僕は宇宙人系男子 | ナノ



「あれは、俺が専門学……学園の門を叩いたばかりの頃。俺の鞄についているKYOYAのキーホル……鍵の守護者を見た、とある女史との邂逅が全ての始まりだった…………」


以下、分かり易いよう月峯さんの言葉を翻訳し、簡潔にまとめさせていただますと、こういうことです。


専門学校に入学されたばかりの頃。月峯さんは、鞄につけていたKYOYAのキーホルダーをきっかけに、クラスの女子生徒数名に声を掛けられました。

彼女達は全員KYOYAファンということで、月峯さんは大変喜び、共にKYOYAについて熱く語らおうとしたのですが、彼女達は皆、地球独特のアニメ・漫画文化の中でも更に特異な文化に傾倒されている方々だったそうで……。


「クソ!! 何が『響夜は白影の嫁』だ!! 宿命のライバルである二人を、どう見たら恋仲だと言えるのだ!! そもそも響夜にはアリスという相手がいるのだぞ!! どこをどうしたら白影とくっつくというのだ!!!」


このように、作品に対する解釈の違いにより、月峯さんは心に深い傷を負い。以来、KYOYA好きの女性とは距離を置くことを絶対としている、とのことでした。


「他の女史も『私は紅牙×響夜推し』だの『私、響アリ地雷だったわー』だの……あの時、もし俺が怒りによって覚醒していたら、学園は確実に血の海に沈んでいたに違いない……」

「……悔しかったのですね、月峯さん」

「ああ。帰ってから少し泣いた」

「泣く程のことかよ」

「泣く程のことです!!!」


月峯さんにとって、KYOYAは人生を変えた漫画。いえ、人生そのものとも言える漫画です。

彼がKYOYAをどれだけ愛しているかは、僕らもよく知っていますので、月峯さんが悔しくて悔しくて堪らないと憤慨し、机を殴る気持ちも少し分かります。
ですが、ぶっちゃけ、そんな理由で拒否されては水澄さんがあんまりではないかと、僕は月峯さんの固定観念をどうにか出来やしないかと説得を試みることにしました。


「しかし……水澄さんがそういう目でKYOYAを見ているとは限らないのではないのでしょうか」

「いいや!! 女は全員、KYOYAを邪推するに違いない!! やはり少年漫画であるKYOYAを真に理解出来るのは、男だけなのだ!!」


が、今の月峯さんは宛ら、人間に虐げられて育った犬猫のように、疑心と敵意に満ち満ちています。

僕や火之迫さんが何を言ったところで、聞く耳を持ってはくれないでしょう。


「水澄女史のアレは、つまり、俺に対する宣戦布告……。やはり彼女は、俺と雌雄を決する運命にあったのだと……俺はそう確信している。友よ、俺が彼女と戦うその時は……どうか花を手向けてくれ。大輪の薔薇の花をな……」

「…………どうしますか、火之迫さん」

「いや、どうにもなんねぇだろ、コレ」


ですよね。とは思いますが、此処で僕らが引き下がると、水澄さんがあまりに浮かばれません。

せっかく月峯さんの為にKYOYAを買って、照合印まで覚えてきたというのに、KYOYAを読む女性とは相容れないのだと今まで以上に距離を取られてしまうなんて。
下手すれば、温かな春の兆しが見えてきたツンドラが、南極点どころかブーメラン星雲と化す事態に成り得るかもしれません。

ブーメラン星雲系女子……。触れる者みな傷付けるどころではないでしょう。最悪、月峯さんが新たなトラウマを負うことになりそうです。

そんな惨劇が起こる前に、何とか誤解を解いて、月峯さんと水澄さんの仲を取り合ってあげねばと思うのですが、火之迫さんは我関せずを貫きます。


「漫画の話一つで終わる恋なら、始まる前から終わらせてやるべきだと思うぜ、俺は。水澄もこれ以上の黒歴史を築くこともないしよ、一石二鳥だろ」

「……火之迫さん、幾ら月峯さんの説得が面倒だからといって、そんな」

「大体、無理矢理説得しようとすりゃ、流石のあいつでも疑るだろ。なんでそんなに水澄がKYOYA好きなことを受けいれろってんだってな。そうなったらお前、なんて言うんだ?」

「…………それは」


水澄さんは、これまでの自分を清算出来るまでは、月峯さんに抱く想いを決して知られたくないのだと仰っていました。
ですので、月峯さんを説得する為に、彼女の気持ちを口にしてしまったり、匂わせてしまったりしては、本末転倒でしょう。

現状、水澄さんの真意を知っても、月峯さんは疑心暗鬼になられるでしょうし。水澄さんも、ご自分の想いを勝手に言いふらされたとなれば憤慨されるに違いありません。
二人のことを思うのであれば、火之迫さんの言う通り、此処は放っておくのが最良の選択なのかもしれません。


それでも、コンビニコミックス版KYOYAを両手に抱えて走っていったあの日の水澄さんのことを想うと、どうにかしてあげたいという気持ちが湧いてきて。

僕は、どうにか上手く月峯さんを納得させられる言葉は見付からないかと、必死で考えました。その時。


「すみませーん! 月峯先輩いらっしゃいますかー!」


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