僕は宇宙人系男子 | ナノ



宇宙人に出会ったことはありますか。

そう問えば、凡その地球人は「会ったことない」と答えるでしょうし、「宇宙人なんていない」とも答えられるでしょう。

しかし、実は貴方達が気付いていないだけで、凡その地球人は宇宙人と会って、普通に喋ったりしているのです。

例えばそこで仲睦まじくお菓子を選んでいるカップルの彼氏さん。
貴方の隣で、苺プレッツェルを持ってニコニコしている彼女さんは宇宙人で、それを眺めているコンビニ店員の僕もまた、宇宙人です。


「星守くーん、レジお願いー」

「はい」


僕の名前は、星守真生(ほしもり・まお)。
勿論これは地球で使っている偽名で、本名はマオ・チェスカドーラ・マグニ=ドル。
出身は惑星マグノタリカで、訳あって地球に短期留学……というか、短期潜伏しています。

繰り返し言いますが、僕は、宇宙人です。




地球人の方々には信じられないかもしれませんが、貴方達が宇宙人と呼ぶ存在は、惑星間を行き来することを当たり前にしています。

というか、未だに宇宙に飛び立つのに逐一莫大な資金を要するのも、異星人と交流を果たせていないどころか認識すら出来ていないのも、宇宙に存在する知的生命体の中で、貴方達地球人くらいで。
貴方達が宇宙人と呼ぶ者達の殆どは、距離次第によっては、ちょっと買い物行ってくる、というような感覚で他星に向かうことが出来るのです。


「お待たせいたしました、いらっしゃいませ」

そんな訳で。此処、地球にも実に多くの異星人が訪れています。
私のように故あって潜伏している者もいれば、旅行で来ている者、買い物に来ている者……。様々な理由で、様々な知的生命体が、地球に降り立っています。

それこそ二十四時間三百六十五日。この青い星には、ひっきりなしに異星人が詰めかけているといっても過言ではありません。


ですが、我々は決してその正体を地球人に曝すことはなく、地球人に擬態し、地球人として過ごしています。

私が、地球人・星守真生としてコンビニで働いているように。地球に訪れる者は皆、その姿と素性を隠さなければならないのです。


――地球人に、異星人として接触するべからず。


これは我々異星人の干渉により、地球の環境を破壊してしまわないよう、大宇宙連合が定めた地球保護法の一文であり、宇宙共通の常識でもあります。

地球人の感覚で例えるのなら、野生動物の巣に踏み込んで、パニックを起こさせないようにしよう……というようなものでしょうか。


そう、我々から見た地球人というのは、動物のようなものなのです。

未だ異星人の存在も知らず、地球という星でひっそり暮らしている貴方がた地球人は、大多数の知的生命体から見て、とても愛らしい存在で。
貴方がたが犬や猫を見て癒しを覚えるように、異星人達は地球人を愛でていて、地球の様子をひた流す番組などもあるくらいです。


ここまで言えばお分かりになるでしょう。

何故多くの異星人が訪れているのに、地球人は未だその存在を認知出来ていないのか。
それは、我々が気付かれないよう、こっそり地球人に成り済まして、貴方がたに接しているから。
もとい、宇宙に住まう知的生命体達がみな口を揃えて「地球人が私達を見て怯えたらカワイソウ」と思っているからなのです。


「ありがとうございました」


希望の菓子を買ってもらって嬉しそうにしている彼女が、実は体長六メートルを越えていて、百を上回る触手と目玉を持っているなどと知ったら、腕を組まれてデレデレしている彼氏さんは、泡を吹いて卒倒するでしょう。
知らぬが仏という言葉が地球にはありますが、まさにそれです。

我々の内、一人でもその姿を曝せば、地球は瞬く間にパニックに陥ってしまうでしょう。
宇宙からの侵略者、敵いそうにもない化け物が来たと、人々は我々に怯え、地球の平穏は乱れてしまうでしょう。

そうなってしまわぬよう、我々は地球人に、決してその正体を知らせてはならないし、悟られることすらあってはならないのです。

よって僕も、本来の姿と力を隠し、地球人として暮らし、地球人らしく振る舞って過ごしています。


「いやー、星守くんはホント、レジ打ち早いねー。たまにレジが星守くんのスピードについていけなくなってるし!」

「……お客様をお待たせしてしまわぬようにと急いで打ってるのですが……レジはゆっくりしたいみたいですね」

「アハハハハ! レジは年中無休フルシフトだから仕方ないねー!」

「……ハハハ」


地球人らしく振る舞うことに徹し、早半年。
時たまミスをしでかすことがありながらも、どうにか疑われることなく、フリーター・星守真生としての日々を送ってきた僕ですが――最近、ある問題を抱えています。


「いらっしゃいませーっす!」

「いや、だから。何回も言ってるけど『いらっしゃいませ』な? 『いらっしゃいませっす』じゃないからな? OK?」

「はい先輩! 分かったっす!」

「いや、ホントに分かってんのかお前。分かってんなら『〜っす』使うのやめて『〜です』とかに……」

「あっ、いらっしゃいませーっす!」

「やっぱり分かってねぇじゃねぇか!!!!」


今現在、隣のレジでお叱りを受けているというのに、何故か照れ笑いしている女子高生。

彼女に――僕の正体がバレかけているかもしれないのです。


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