僕は宇宙人系男子 | ナノ
「えっへへ、また火之迫さんに怒られちゃったっす」
「……火之迫さんに怒られて笑ってられる人を見たの、僕初めてです」
「えへへ」
「……褒めてないですよ、日比野さん」
彼女の名前は、日比野なつき。つい先月入ってきたばかりのアルバイトで、このコンビニでは一番の新人です。
ごく普通の地球人かつ、ごく普通の日本人ですが、ごく普通の女子高生……というには、かなり変わった性格と口調をしている方だと思います。
「日比野さんのその喋り方は、クセなのですか?」
「そうっすねー。直そうとは思ってるんっすけど、どうしてもこうなちゃって……。だから、星守先輩みたいにちゃんと敬語使えるの、羨ましいっす!」
「はぁ……」
外見は、地球人的にも国籍的にも年齢的にも標準。背は同年代に比べやや小さめ、髪も同性の中ではかなり短い部類ですが、特に逸脱したところは見られません。
所謂、何処にでもいる系統の見た目をしていますが、内面はなんというか、天然です。
「まぁでも……日比野さんは挨拶がしっかり出来てますし、真面目にやってるのが分かりますので……店長も、無理に直さなくてもいいと言っていましたよ」
「ホントっすか! でもやっぱ、星守先輩みたいに敬語使えるよう、練習するっす! 自分、頑張るっす!」
「そうですか……あ、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませーっす!」
「……日比野さん」
「あぁーーっ!! またやっちまったっす!!」
こんな方なので、僕の正体に勘付いているかもしれない……というのは、杞憂かもしれません。
ですが、警戒するに越したことはありません。
油断をして、うっかり尻尾を掴まれるようなことがあっては、要らぬトラブルを招いてしまいます。
無事に地球潜伏生活を終える為にも、より地球人になりきることに徹しなければ――と、彼女に出会う前から、気を付けてきてはいた筈なのですが……。
「えっとー、からあげちゃんのレギュラーとー……フランクフルトと骨なしチキンと、コロッケ二つー……あと、肉まんとピザまん一個ずつください」
「はいっす! からあげちゃんのレギュラーがお一つ、フランクがお一つに、コロッケがお二つ! あと……」
「肉まんとピザまんが一個ずつですね。お待たせ致しました」
「えっ?!! お兄さんもう取ってきたの?!」
「……………」
またやっちまったっす。
彼女のようにそう言えたなら、どれだけ楽か。
僕は苦笑いさえ浮かんでくれない顔を強張らせながら、注文の品々を袋に詰めたのでした。
「やっぱ星守先輩すごいっす!! 揚げ物とか中華まん取るの速過ぎっす!!」
「ト……トングを長年使ってきてるもので…………」
「マジっすか!? 星守先輩、ボールはトモダチみたいな感じでトングとトモダチだったんっすか?!」
地球人のスピードに合わせるというのは、今になっても慣れないもので。
僕なりにかなりゆっくりやっても、地球人の方から見ると凄まじい速さのようで、度々こんな風に驚かれてしまいます。
その都度、適当な言い訳をして、どうにか流してきた僕ですが……これが、日比野さんの登場により、思わぬ命取りになってしまいそうなのです。
「はぁー……。自分もトングとトモダチになったら、もっと早く揚げ物取れるっすかね……」
「星守みたいにやろうと思うんじゃねぇぞ、日比野。お前ただでさえ落ち着きねぇのに速くやろうとしてみろ。チキンが宙を舞うぞ」
「その舞い上がったチキンも、星守先輩ならキャッチ出来そうっす! というか、こないだやってたっす!」
「マジかお前」
「……トングが、導いてくれたみたいで」
あくまで、地球人の範疇。故に誤魔化しきれてきた半年間。周囲の方々は、僕の多少逸脱した動きを見ても「すごい」の一言で片付けてくれていました。
しかし、彼女……日比野さんは、これを全く予期せぬ言葉で形容してくれたのです。
「すごいなぁ。やっぱあれだよ、星守くんは。こないだ日比野ちゃんが言ってたあの……えーっと、確か……」
「宇宙人っす!」
地球人らしく振る舞うことに徹し、早半年。
時たまミスをしでかすことがありながらも、どうにか疑われることなく、フリーター・星守真生としての日々を送ってきた。
故に、初めて彼女にそう言われた時は、心臓部(コア)が一瞬止まったかと思いました。
自分は、地球人の常軌をそこまで逸脱してしまっていたのかと。会ったばかりの少女に見抜かれてしまう程だったのかと。焦りと絶望感に見舞われ、返す言葉に詰まっていました。
が、日比野さんが言っているのは、僕を異星人だと断定したということでもないようで。
初めてそう言われた日から今日まで、未だ僕が此処で過ごしていられているのも、彼女のある言葉があったからなのです。
「星守先輩は、宇宙人系男子っす!!」
そう。日比野さんから見た僕は、宇宙人ではなく、宇宙人系男子、らしいのです。