楽園のシラベ | ナノ


舗装されていない山道を小一時間。揺れを堪えながら車を走らせたその先に、それはそれは小さな村が見えてきた。

村の入口横に止めたシラベのキャラバンが、大きな怪物に見える程度に、小さな村が。


「……私達、此処に来るまでにでっかくなった訳じゃあないよな」

「安心しろ。お前は相変わらずのチビちゃんだし、クルィークは変わらずデカブツで、俺はモデル体型のままだ」


リヴェルが、自分が大きくなったのでは、と錯覚するのも無理はない。


ドワノエは、小人族と呼ばれる新人類の住む村である。

彼等は旧世代の崩壊後、狭い洞窟の中で暮らしていて、そこで過ごしやすいようにと、体を小さくしていった種族で、大人でも、全長は旧人類の子供程度しかない。
その為、ドワノエの家々はどれも背が低く、二階建ての家でも、クルィークの背丈とそう変わらない。

ドールハウスが並んでいるような、メルヘンな光景に感嘆しつつ、一行は目当ての”使徒様”に会うべく、村に入った第一歩目から気になっていたある場所へ向かった。


「まぁ……いるとしたらあそこだよな」

「あそこでしょうねぇ」


それは、ドワノエの中では場違いなサイズ感を誇る組み立て式テントであった。

村の一角に立てられたテントは、宿泊用というより休憩用のもので、パイプと天幕だけのシンプルな造りだ。
まさについこないだ、この村にやってきましたというような急拵え感。
この辺りで、リヴェルもクルィークも、そこはかとなく胸の内に抱いていた疑問を、膨らませてしまっていた。

此処にいるのは、本当に《銀の星》の使徒様なのか――と。


テントが近付くにつれ、不安が募っていく二人を余所に、シラベは寧ろ、此処に来る前よりもずっと気楽な様子で、ざくざくと先陣をきって、進んでいく。

その先で、一同を待ち受けていたのは、何と言うか、案の定な光景ではあったのだが――其処には、思いもよらぬ人物がいた。


「使徒様! お食事をお持ちしましたダスよー!」

「うむ、苦しゅうない。そこに置け」


意気揚々と食事を運ぶ小人達と、簡素なパイプ椅子に腰かけた白装束に身を包んだ二人組。

尖った耳を持つ優男と、立派な顎を持つ大男。
最近、何処かで見覚えがある、新人類二人の姿に、リヴェルは勿論、先程まで余裕綽々であった筈のシラベまでもが、顔を引き攣らせた。


「なぁ、シラベ……あれ……」

「胸の中で、安堵と殺意がフォークダンスを踊ってる。俺ぁ今、そんな気分だぜ」

「と、いうことは」

「あぁ、お前の中にある『もしかして』は、もしかするぜ、リヴェル」


一人、「どういうことっすか」と取り残された様子のクルィークと、やっぱりかと頭を掻くリヴェルを置いて、シラベは、ふんぞり返りながらドワノエ名物・コビトカボチャのコロッケを貪る二人組へと歩み寄る。

揚げたてのそれを無心に頬張る大男と、隣で優雅にチーズを口にする優男。
二人の、”使徒様”としての余裕は、此方に向かって来るシラベの姿を目にした刹那、音を立てて崩れ落ちた。


「げっ?!!」

「お、お前は!!」

「よう、久し振りだな。チョコザイコンビ」


人違い、ではなかったらしい。

リヴェルの「もしかして」は、シラベが言った通り、もしかした。

テントで悠々と構え、小人達に”使徒様”と呼ばれていたのは、奇しくもシラベとリヴェルが共に旅をする切っ掛けになった、あの二人。
ヒューマン・トレーダーのエルドフと、ビッグ・ジョーであった。


「こんなに早く再会出来るたぁ思わなかったぜ。てっきり今、塀の中だと思ってたからよ」

「リヴェルちゃん、知り合いっすか?」

「使徒様、お知り合いダスか?」


事情を知らないクルィークと、ドワノエの村人の言葉が重なった。

ので、まとめて解説してやろうとリヴェルが口を開き掛けた、その時であった。


「おぉおお!! よくぞ参ったな同士達よ!! 待ち侘びていたぞ!!」

「……は?」


椅子を蹴飛ばす勢いで飛び出し、村人の間に割って入ってきたエルドフに、シラベとリヴェルは言葉を失った。

その隙を逃してなるものかと、エルドフは仰々しい口振りで畳み掛けていく。


「ドワノエの民の協力で、我等の次なる奇跡は目前だ! それについて話さねばならぬことがある! 少し席を外そうではないか!!」

「いや、お前何言って」

「ドワノエの民よ!! 我々はこれより重要機密について話し合わねばならぬ! 向こうで話しておるが、決して近付くでないぞ!!」

「わ、分っかりましたダ〜〜」

「ちょいちょいちょい」

「さささ、行くぞ同胞よ!!」

「おーーーーい」

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