カナリヤ・カラス | ナノ


――ラニスタとホルデアリウスのオファーを受けていただきありがとうございます。


「…………」


――今回、オファーを受けていただいた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?


「…………」


――対戦相手の金成屋三人について、どう思われますか?


「…………」


――ラニスタとホルデアリウスへの意気込みは?


「…………」


――最後に、貴方にとって地下格闘技とは?


「…………」


――ありがとうございました。




何の参考にもならないプルチネルラのインタビュー動画を眺めながら、これで何を判断しろと言うのだと男達は溜め息を吐いた。


「ドが付く無口なのか、喋れねぇ奴なのか、そういうフリしてんのか……考えた所でだな」

「実際動いてんの見ても分かんねぇなぁ。鷹彦相手にあそこまでやれる奴だろ?どっから見付けて来たんだよ」


彼らの関心は最早、ラニスタとホルデアリウスより福郎陣営の選手予想の方にあった。

初戦の大番狂わせこそあったが、奇跡というのは二度三度起きるものではない。
ワタリ相手にジャイアントキリングを起こしてみせたギンペーも、朧獄館永世トップである鷹彦も、あの仮面闘士に叩きのめされた。

福郎会長の事だ。一方的が過ぎる試合はするなと言ってあるだろうが、それでも結果は見えている。これより行われる消化試合に入り込めるのは、あそこで横断幕を掲げる一団くらいのものだろうと、男達は向かいの席で声を張り上げる団体を呆れ混じりに眺めた。


「うぉおお〜〜〜!!!!雛鳴子!!雛鳴子!!」

「雛鳴子!!雛鳴子!!」

「お前も応援するんかい」


統率された動きでペンライトを振る一団と合わせて声を上げるキューを横目に、鴉がこれでもかと眉を顰める。公私混同も甚だしい、というより、何勝手に盛り上がってんだという気持ちが大きい。

何時の間にファンクラブなんて結成してくれたのか。しかも勝手にグッズまで作っていがる。
野太い歓声をリングに飛ばす男達の首から提げられたタオル、ひよこのマークが施された黄色い法被、胸元の缶バッジ。あれだけ作るならウチに話を通すのが筋だろうがと鴉が眉間に皺を寄せる中、リング上の雛鳴子は正面に立つプルチネルラを見据えていた。


ギンペーを瞬殺し、鷹彦を一方的に嬲った相手だ。武器の持ち込みと特別勝利条件があっても、勝てるビジョンが見えない。
日々の鍛錬により今や大の男だって投げ飛ばせるようになった雛鳴子だが、眼の前の相手にそれが出来る気がまるでしなかった。

構えもせず、ただ其処に佇んでいるだけの男。その線の細い体が、巨大な岩山に見える。
人の体でどうこう出来るものではないと、一目で理解させられるような。そんな絶対的なものが、仮面の下に隠れている。


こんなものを相手に、何が出来るのか。何かさせてもらえるのか。

伝い落ちる冷や汗をぐっと拭うと、今は仕事中であったと我に返ったキューが実況席に着いた。


「さぁ、ラニスタとホルデアリウス、第四試合!!仮面闘士プルチネルラの快進撃により後が無くなった金成屋陣営、最後の拳闘士は我らが雛鳴子さん!!そのお顔が優勝しているので不戦勝で百億円差し上げたい所ではありますが、福郎会長からお許しが出なかった為、ギンペー選手、鷹彦選手同様に試合を行っていただきます!」

「俺が言うのもなんだが、そんな無茶通る訳ねーだろ」

「再三の説明となりますが、金成屋陣営は鷹彦氏以外の二人にはKO・降参以外の特別勝利条件が設けられております!試合中、この条件を達成された場合、金成屋陣営はその場で勝利!ベットした金額は二倍付けで配当されます!!金成屋陣営の命運が掛かったこの試合!打倒プルチネルラの鍵となるか!此度の勝利条件は此方となります!!」


キューが勢い良く手を振り翳すと同時に、リング外のバニーガール達がフリップを掲げる。

祈る事など、とうに止めた。だからこの手は、決して組み合わせたりしないのだと拳を握り締めながら、雛鳴子は其処に書かれた文字を睨むように読み取った。


「……一分以内にプルチネルラの正体を暴く」

「そう!雛鳴子さんの特別勝利条件は、プルチネルラ選手の正体!その仮面に隠された素顔を暴く事です!!」

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