カナリヤ・カラス | ナノ


そう来たか、と鴉は眉間に指を押し当て、低く息を吐いた。

甚だ不本意だが、上手くやるものだ。既に試合への関心を失くしていた観客を引き込むカードを伏せていたとは。したり顔で笑う福郎から眼を逸らすように、鴉はリング上に佇むプルチネルラを睨んだ。


「鷹彦、」

「……すまん。あれだけ打ち込まれたが、さっぱりだ」

「だろうな」


口惜しい事に、鴉にもあの仮面の下に心当たりが無かった。

ギンペーとの戦いは一瞬で終わり、判断材料ゼロ。鷹彦との戦いで得るものはあったが、あの戦いが一層、プルチネルラの正体を分からなくしていた。


鷹彦が手も足も出ないような相手など、そうは居ない。ゴミ町の中で言えば、自分やワタリくらいのものだ。それだけで言えば、思い当たる節はある。が、それだけは有り得ないと言えるのが問題だった。

可能性のある人物は、今こうしてリングの上に立っていられない。そう立証されてしまっているが故に、鴉は苛立った。


あれは、誰だ。あの駒は、何処から持ってきた。


パイプ椅子に身を凭れさせながら、苛る頭をわしわしと掻いた瞬間。鴉の脳裏にふと、福郎の言葉が過った。


(鴉……否、バイオフォーセスbPと呼んだ方がいいかの)

(儂が如何にして主の正体に辿り着いたか、知りたかろう。その答えを賭けて、主と遊戯がしたいのだ)


まさか、あれがそうなのか。

だが、しかし――あんな動きをする奴が居たかと、鴉が砂塵の彼方に煙る記憶を探る中、キューは特別勝利条件の補足を進める。


「試合開始より一分間、プルチネルラ選手は一切動きません!その間、力ずくで仮面を剥ぎ取るもOK!直感で当てるもOK!どんな方法でも彼の正体を衆目に晒せば雛鳴子さんの勝利となります!!無論、一分を過ぎた時点で即敗北とはなりません!プルチネルラ選手が動かない一分の間に降参やKOを狙うもアリ!お好きな方法で勝利を掴み取ってください!」


とは言うが、一分を過ぎたら負けも同然だろう。鷹彦が敵わない相手に自分が勝てる道理など無い。故に、無抵抗のプルチネルラから仮面を剥ぎ取るというのも、特別勝利条件以外の方法で勝つというのも土台無理な話だ。

実質、勝ち筋は一つ。プルチネルラの正体を看破する他に無い。猶予は六十秒。たったそれだけで、全てが決まる。


「この条件を踏まえた上でのオッズは此方!!私は雛鳴子さんに賭けまー−す!!」


オッズがモニターに表示された瞬間、観客席から何とも言えないトーンの「おぉ〜……」という声が響いた。


雛鳴子、KO勝ち……55倍
雛鳴子、降参勝ち……50倍
雛鳴子、特別勝利……10倍
プルチネルラ、KO勝ち……1.02倍
プルチネルラ、降参勝ち……1.01倍


注目すべきは特別勝利条件の倍率だ。プルチネルラの正体を雛鳴子が暴くという条件が、初戦のギンペー対ワタリと同率。その数字が現しているのは、雛鳴子にも十二分に可能性があるという事。即ち、プルチネルラの正体は雛鳴子の知っている人物であるという事だった。


「成る程、そう来たかぁ〜」


唯一、プルチネルラの正体に確信を持っている幸之助が、ニタニタと笑う。その隣でムクが腕を組んで唸っているのを見るに、鷹彦を圧倒出来る実力者で、雛鳴子が知っている人物という条件で絞っても判断に困る人物らしい。
寧ろその条件がある方が難しい、と言いたげに顔を顰めるムク同様、観客達もどうしたものかと悩んでいた。

ミツ屋の次期頭目であるムクですら見当が付かない相手。それを雛鳴子に見抜く事が出来るのか。オッズ的にプルチネルラに賭ける旨味も無いが、かと言って安易に雛鳴子にベットするのも危険だ。福郎会長も上手い事やるものだと、男達が投票券とモニターを交互に睨め付けていたその時。


「ふぃ〜〜、間に合ったぁ〜!」

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