カナリヤ・カラス | ナノ


「よう、鷹彦(たかひこ)。朝からご苦労だな」

「………………」


鴉の後ろに半分隠れながら、雛鳴子はサングラス越しに此方を見据える男を眺めた。

背丈は鴉と同じくらい。年齢も、彼と変わらないように見える。ベージュ色のファーが付いたブラウンの革ジャケットを羽織った、茶髪の男。彼が金成屋二人目の従業員。名を、鷹彦というらしい。


「……鴉、なんだこの幼女は」


聞いていた印象より、鷹彦はだいぶ落ち着いているというか、まともな印象を受けた。知らない子どもが居る事に疑問を抱き、若干引いている辺りから。


「昨日道端でヤクザから買った。見ての通りの上玉だから俺好みに育ててみようと思ったんだが、一千万返済してみせるって啖呵切ってきたんで、取り敢えず此処で働かせることにした。質問はあるか?」

「いや……もう十分だ」


鷹彦が諦めたように深い溜息を吐くのを見て、雛鳴子は思わず涙しそうになった。この人は、鴉さんよりまともだ、と。

同時に、この人とは出来る限り上手くやっていった方がいいと判断した雛鳴子は、鴉の後ろから飛び出し、鷹彦に向かって深くお辞儀した。


「初めまして、雛鳴子といいます。大体鴉さんが言った通りのいきさつで、昨日から此処に置いてもらえることになりました」

「……君には同情せざるをえないな」


心底そう思ったのだろう。鷹彦は此方に目線を合わせるように屈み込むと、ぽんぽんと頭を撫でながら、自己紹介を返してきた。


「俺は鷹彦。鴉の相方というか、なんというか……まぁ、腐れ縁で仕事仲間をしている」


その一言で「あぁ、この人も苦労してるんだなぁ……」と察した雛鳴子は、これでもかと眼を細くした。

鴉の無茶苦茶な言動に、散々振り回されてきたのだろう。その気苦労が滲み出た鷹彦の苦々しい微笑に、雛鳴子は未来の自分を彷彿し、同じように笑った。一方、諸悪の根源たる鴉は、へらへらと笑っていた。


「ま、暫くは適当に家事とパシリだけやらせるから気にしなくていいぜ、鷹彦。それより、仕事の話だ。先に下降りてろ」

「……了解」


短く返事をすると、鷹彦は膝を伸ばし、雛鳴子に向けて軽く手を振って、行ってしまった。


「……あの人が、もう一人の従業員」

「あぁ。此処は俺と鷹彦の二人でやってるから、取り敢えずアイツの顔だけ覚えておけば、当分は問題ないぜ」


鷹彦が去った後、朝食を食べ終えた二人はそれぞれ皿の片付けと、仕事の支度を始めた。
台所は対面式の為、洗い物をしながら自室から持ち出してきた書類をあれこれ纏めている鴉の姿が見える。


「これから昨日の集金結果と、今日の仕事の打ち合わせだ。さっさと皿洗って、学べよ雛鳴子」


自分があれらに触れるようになるまで、どれだけ時間を要するか。此方を試すように笑う鴉を睨め付けながら、雛鳴子は手早く皿を片付け、トレードマークのコートを引っ提げて店へと向かう彼の背を追った。

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