カナリヤ・カラス | ナノ


「さぁ、大番狂わせに次ぐ大番狂わせ!!会場の熱気も最高潮の中執り行われますラニスタとホルデアリウス第三試合!!ギンペー選手を瞬殺した謎の仮面闘士・プルチネルラと拳を交えるは、朧獄館二大永世トップが一人、鷹彦選手です!!」


地下闘技場が歓声に震える。二大永世トップが一人たる鷹彦の登板に、正体不明の拳闘士。盛り上がらない訳のない対戦カードに沸き立つ観客達に対し、リング上は酷く静かだ。

ロープで仕切られただけの場所だというのに、まるで別世界のような空気が其処にある。
緊張感、と言うべきか。当人達は至って平静だが、見ている側が固唾を飲まされる。ぐ、と張り詰めた空気を嚥下しながら、雛鳴子は自ずと強張る顔でリングを見据えた。


「あの仮面の人……一体何者なんでしょう……」

「さぁな。興味ねぇわ」

「興味無いって……あの人の正体、死活問題ですよ。鷹彦さんが相手とはいえ、あの福郎会長が用意した選手なんですから」


言われるまでもないだろうが、と鴉を一瞥すると、雛鳴子は再びリングへ視線を戻した。

ギンペーが一瞬で倒されてしまった為、相手の実力は全くの未知数だ。
あの身のこなしからするに只者ではないというのは確かだが、そも、福郎が用意してきた拳闘士に何もない訳が無い。

鷹彦が出てくる事を前提に集めた駒だ。彼が相手でも勝てるだけの実力があって然るべきだろう。
その力がどれ程度のものなのか。重要なのは其処だ。


ギンペーや雛鳴子に与えられた特別勝利という名のハンデを、鷹彦は有していない。シンプルに実力一つで勝負しなければならない状況で、相手の底が知れないというのは致命傷だ。

パワー、スピード、テクニック。一つでも見誤れば、即瓦解する。

未だ見ぬ三人目の拳闘士の事もある。鷹彦には何としても勝ってもらいたい所だと、雛鳴子は穴が開くほどプルチネルラを見遣る。


身長は鷹彦より少し高いくらいか。靴のヒールを差し引けば、凡そ鴉と同じくらいに見える。
マントに覆われてはいるが、体は細身だった。ワタリのように純粋なパワーで攻めるタイプではなく、速度としなやかさが生む手数の多さが武器、と言った印象を受ける。

普通に殴り合えば鷹彦に分がありそうだが――などと思惟している雛鳴子へ露骨に顔を向けながら、キューは試合に向けて司会を進める。


「さて!皆様気になる事はあれやこれやある事でしょうが、まずはオッズの発表です!」


ハッと弾かれたように顔を上げ、雛鳴子はモニターに表示されたオッズを仰ぎ、うへぁと顔を顰めた。


「ま、また何とも言えない倍率を……」

「カッ。如何にもあのジジイらしいオッズだな」


鷹彦、KO勝ち……1.5倍
鷹彦、降参勝ち……1.15倍
プルチネルラ、KO勝ち……2倍
プルチネルラ、降参勝ち……1.75倍


相手の実力を測る材料には成り得ないオッズに、雛鳴子が項垂れる。


単純な数字だけ見れば鷹彦の方が勝っているが、彼が二大永世トップであるが故の補正のようにも見えるし、全くのブラフのようにも見える。
先の試合で、福郎に差を付けられている。今後の事も考え大きく勝負に出たい所だが、何もかも不明瞭な状態での高額ベットは余りに危険。

ゴミ町のトップに立つだけあって、駆け引きが上手い。雛鳴子は親指を噛みながら、此処はどれだけ賭けるのが得策かと思惟する。


「さっきの試合で福郎会長との差は八億……この差を埋めるには最低でも四億ベットしなきゃいけないけど、もし鷹彦さんが降参せざるを得なくなったら……」

「その心配は無用だ」

「え、」

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