カナリヤ・カラス | ナノ


カゴに入れただけの商品を購入し、ギンペーと雛鳴子は、メレアに続いて彼女の自宅――ターキーキッチンへと向かった。

配達員をしているだけあって、メレアもスクーターに乗っていたが、ギンペーに気を遣い、押し歩いてくれている。


「そのスクーター、可愛いね。もしかして、自作?」

「まぁね。部品なら、不法投棄されたものから作れるし……スプレーとかは流石に買って来なきゃだけど、家に大体揃えてあるから。その原付、色変えたいなら塗装するけど」

「ホント!?どうしよっかなぁ〜……せっかくだし、別の色にしてもらおうかなぁ〜」


ゆくりなく、両手に花。右を見ても左を見ても美少女の図に、ギンペーはデレデレと締まりのない顔をしていた。

超絶世級の美貌を持つ雛鳴子に劣らず、メレアも非常に整った顔立ちをしている。
前者は華やか、後者は涼やかと、容貌から感ぜられる雰囲気は異なるが、どちらも美しいことには変わりない。

透き通るような白い肌に、色素の薄い髪と、天奉人離れした目鼻立ち。風変りな名前の響きからするに、もしかしたら異国の血が混じっているのかもしれない。
きっと親も、さぞ美形なのだろうと思いながら、ギンペーは弾むような声で雑談を交わした。


「そういえば、どうしてメレアちゃんはターキーキッチンで配達員やってるの?スーパーメカニックって言われるくらいなんだし、本業そっちでいいんじゃ」

「私の父親が、ターキーキッチンの店長だから」


ターキーキッチンは、ゴミ町に点在する飲食店の一つだ。

見た目は、レストランとかダイニングとか、そういう洒落たようなものではなく、食堂と言うのに相応しい。
円卓やカウンター席に、客が好き勝手に座り、酒は出ないのに随分賑々しい場所であったなと、雛鳴子は随分前に鴉に連れられて行った時のことを思い出していた。

値段に対し、味も量も申し分なく、メニューも充実していた。
まさにこの混沌とした町に相応しく、多種多様かつ多国籍な料理が軒を連ねていたなと、雛鳴子は回顧しつつ、メレアの話に耳を傾ける。


「父さんも、お前の腕なら都の大手企業だって欲しがるだろうし、配達員なんかやらなくていいぞって言ってるんだけど……。私は機械いじりが趣味なだけで仕事にする気はないし、都に行きたいとも思わないし……店の手伝いも好きでやってることだから、こっちが本業でいいの」

「へぇー、そうなんだ」

「っと、見えてきた」


そうこうしている間に、目的地のターキーキッチンが見えてきた。

修繕に必要な道具類は裏のガレージにあるとのことだが、取り敢えず帰宅したことと、これから原付修理に取り掛かる旨を父親に伝えたいとのことで、まずは店の方に顔を出すことになった。

依然、美少女にサンドされているギンペーは浮かれ気味で、「せっかくなら此処でお昼食べていこうかなぁ」などと、呑気なことを考えつつ、彼女の後に続いて店に踏み込んだのだが。
彼の絶頂は、突如振り翳された肉切り包丁によって断裂された。


「どぅらぁああああああ!!!」

「のわああああああっ?!!」


野太い怒号に見合った勢いで、大振りの包丁が空を裂いた。

反射的に跳び退いて、尻餅を付いていなければ、間違いなくそれはギンペーの頭から股まで真っ直ぐに押し切っていただろう。

腰が抜けたギンペーの横で、雛鳴子さえ青褪めている中。石造りの床をも砕いた包丁が、ゆっくりと上げられた。


「父さん、ただいま」

「父さん?!!」

「おう、おかえりメレア……」


ゆうに、二メートルは越えているだろう巨躯。一睨みしただけで、小動物が命を落としそうな凶相。おまけにドレッドヘア。
人を竦ませるのにこれ程条件が揃うこともないだろう。
肉切り包丁片手に佇むその大男こそ、ターキーキッチンの店長にして、メレアの父親。多岐七郎太であった。

今にも口から心臓が出てきそうになりながら、ギンペーは嘘だ、と叫びたかったが、そんな余裕さえ多岐は与えてくれなかった。


「先に家ん中入ってな。俺ぁ、害虫駆除を終えたらすぐ戻るからよ」

「が、害虫?!!それ、もしかしなくても俺のことっすか?!」

「お前以外に誰がいんだクソ虫が!!てめぇ、ついに白昼堂々メレアのこと狙ってきやがって!!今日という今日は……」

「待って待って!!一体全体、何の話っすか?!!」


イヤイヤと必死に首を振るギンペーを軽々UFOキャッチャーのように掴み上げ、多岐は包丁を握る手に力を込めた。それこそ、包丁の柄が砕けてしまいそうなくらいに。

そこで、流石に止めなければと思ったのだろう。遅ればせながら、メレアは多岐を制するように彼の服をくいくいと引っ張った。


「父さん、落ち着いて。彼、ただの客だから」


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