カナリヤ・カラス | ナノ



「……つー訳で、こいつは仕方なく、一時的に飼ってるだけだ」


鴇緒が言い訳がましく説明を締め括ったところで、雛鳴子とギンペーは成る程と、苦笑を浮かべた。

腕に子犬を抱いている彼の姿は、ゴミ町四天王の威厳ゼロで。
かつて彼を恐れたのが嘘のようだと眼を細めながら、二人はぐちぐちと、自分は今も納得してなんかいないのだと、不平を口にする鴇緒を見る。


「ったく、冗談じゃねぇよ。コイツ、散歩出さないとクソうるせぇし、すっげぇ首輪嫌いでリードつけれねぇし、いきなり走り出しやがるし……。
こんな駄犬、とっとと新しい飼い主んとこに押し付けてやりてぇんだが…………オイ、やめろモコ。話してんだから顔舐めんな」


二週間の間に、相当懐かれているらしい。
急に駆け出したのも、彼から逃げたのではなく、ただの気まぐれで、鴇緒が来たら真っ先にそっちに向かっていたし、今も身を乗り出して、鴇緒の頬をべろべろと舐めている。

やめろと言いながら引っ剥がしたりしない辺り、鴇緒も子犬に懐かれているのが嬉しいようだ。

掃除屋リーダーとして、子犬一匹に陥落などしていないと、見栄を張って威厳を保っているつもりらしいが、雛鳴子達はもうダメだなと思った。


「ていうか、名前つけちゃったんですね。モコって、この子の名前ですよね?」

「名前付けたら愛着持っちゃうじゃん。誰かに渡すつもりなら、付けちゃダメじゃない?」

「俺もそう言ったんだよ!!けどあいつら、『お前とか犬とか呼ぶの可哀想!』とか言いやがって……それでまた仕方なく、適当に名前付けてやったんだよ!」

「え、じゃあモコってつけたの鴇緒なの?」

「………………」


こうして、勝手にボロを出しているし。

雛鳴子とギンペーは、無意識に子犬――モコを撫で続けている鴇緒に、目尻を下げた。


「……可愛い名前、ですね」

「うるせぇな!!白くてなんかもこもこしてっから付けたんだよ!!可愛くねぇよ!!」


鴇緒は、真っ赤になった顔を隠すように踵を返した。

掃除屋リーダーとして、ゴミ町四天王として有している矜持が、子犬を愛でて、モコなんて可愛らしい名前をつけていることで砕けていくことに堪えられないようだ。

子犬を抱えたまま、耳まで紅潮している時点でもうどうしようもないのだが。
敢えてそれを言わずに、雛鳴子とギンペーは、鴇緒を見送ってやることにした。


「とにかく、その内余所にやるもんだから、俺が犬飼ってるとか触れ回るんじゃねぇぞ!!特にあの野郎にだけは絶対言うんじゃねぇ!分かったな!!」


捨て台詞そのものな言葉を吐き捨てると、鴇緒は逃げるように駆けて行った。

あの野郎、というのは問うまでもなく鴉のことだろう。
耳聡い彼のことだ。自分達が密告するまでもなく、鴇緒が子犬を飼っていることなど既に知っていそうだが、これを言ったら鴇緒はその場にのた打ち回りそうだ。

取り敢えず、そっちの方も黙っておいてやろうかと思いながら、二人は嵐の後の静けさの中で、苦々しく顔を綻ばせた。


「とか言いながら、自分で率先して散歩しちゃってる辺りアレですね」

「いざ新しい飼い主に渡すとなったら、一番手放すの惜しみそうだよね、あの感じだと」


自分達とほぼ同年代でありながら、ゴミ町四天王に君臨した男、鴇緒。

かつて、彼の強さや狂気を目の当たりにして、自分達とは全く異なる存在だと思っていたが。案外、思っていたより近しいのではないかと、二人は、くだらないプライドをぶら下げている鴇緒が見せた真っ赤な顔を思い出して、揃って笑った。


予期せぬ出来事に、かなり時間を食われた。
今日の仕事には余裕があるので、そう急かなくてもいいが、そろそろ移動しておかなれば、鴉に何を言われることか。

雛鳴子とギンペーは、鴇緒のことは置いといて、業務に戻ろうと、次の目的地目指して移動を再開した。


「……にしても、なぁーんかどっかで見たことあるんだよなぁ、あの犬」


prev next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -