病手線ゲーム | ナノ



「そう、このゲームは私ヤマダこと浜渕京平と、病手線こと山田千咲による、中途半端な自殺志願者様達への八つ当たりなのでございます!」


高らかにそう言い放つ俺を、ロッカールームの中から出した高校生が、じろりと睨んだ。
我が呪いの産物ながら、こうも見事に人間を折り畳むとは天晴だ。

そんなことを思いながら、俺は膝を曲げて、実に憎々しげな顔をした高校生が尋ねてきたままに、真相を語る。


「まさかここが現実だとは思われなかったでしょう?その通り。ここは私共が生み出した呪いの世界であり、乗客の皆様は、この世界に意識を引き摺り込まれたに過ぎません。
言うなれば、悪い白昼夢を見ている状態と言っていいでしょう」


先に出していた大学生やOLも、揃って同じような眼をして俺を見る。

まぁ、種を明かす時には誰しも決まって、こんな顔をするのだから、今更何も感じることはない。


老若男女、国籍、境遇問わず。人間誰しも、自分が死んだその理由と、訳も分からず巻き込まれたこのゲームの本質を知った時。
あまりに想定外の真実に、潰れた眼すらも見開いて、塞がらず硬直した口を更に大きくするのだ。


「私と病手は、ずっとこうして来ました。死ぬつもりなどまるでないくせに、死にたいと心の中で呟きながら日々電車に揺られる生者に、本当の死がどういうものなのかを教える為、皆様から死にたいという感情と、それに関する記憶を奪って、生きたいという本能を煽りに煽ってゲームに参加させました。
そうやって何度も何度も病手線を廻って廻って……このゲームをずぅっと繰り返しております」


信じられないと、この期に及んでも言いたそうにしている今回の敗北者達が、やがて憐れむような眼で俺を見る。

それももう慣れたものだが、しかし、相変わらず不愉快なものだなと、仮面の下の顔を僅かに歪ませた。


「虚しいことを、と思われるでしょう?ですが、これは呪いなのです。実のある呪いなんか、ある訳ないのですよ。
呪いとは、総じて空虚で、無意味で、そして、馬鹿らしいものなのです」


言われずとも知っているのだ。

この、延々と繰り返されるゲームが不毛極まりないことも、こんなことをしても何も生まれないことも。

他ならぬ、呪いそのものである自分自身が心得ている。


だが、それでも俺は、病手線ゲームを止めることは決してないだろう。


「ですから、私共は迫る死を乗り越える真の生者が現れるまで、このゲームを止めることはありません。
いつまでも、死を恐れ、もがき苦しみながら醜く生き延びようとする生者の皆様を、私共は嘲笑う為に、これを続けます」


説明した通り、これは俺と、俺が初めて振り回した彼女の、八つ当たりなのだ。

ただ生きたいと望んでいたのに、そんなささやかな願いすら叶えられずに終わった俺達の、最期の足掻きだ。


こんなことを続けていたって、俺達が救われないことだって、よく分かっている。

分かって、いるが。


「あぁ、ちなみにご安心ください。あくまで皆様、攫われたのは意識だけですので、直に目が覚め、元の世界に”お還り”いただけますよ。
此処での記憶も綺麗さっぱり消去されておりますが……ただ一つ。皆様はもう二度と、死にたいと望むことは出来ません」


この呪いは途切れることがない。

俺達を生み出した浜渕京平の恨みと怒りが断たれない限り、病手線は廻り続ける。


そして、俺達は死にたがり達を乗せてゲームをして、全てを終わらせる人間が現れるのを待ちながら、生者達に当たり散らしていく。


「常に死を恐れ、慄き、来たるべき最後に喚きながら、間際まで生き続けていただく。それが…病手線ゲーム脱落者の負うペナルティです」


ここで死んで尚、酷く絶望するその顔に、ぞくぞくと愉悦が奔った。

嗚呼、これこそ、これこそ俺達が此処で、こんなことをしている意味だと。
仮面に描かれたそれよりも吊り上った口で、俺は意気揚々と、”お還り”間近の生者達へと最後の言葉を告げた。


「死にたいと望むその時には、此処で受けた痛みの全てが、皆様を心から竦ませることでしょう。
いやぁ、楽しみですねぇ。貴方達は一体これから、どんな風に生に縋り付いていくのか。私、見守ることが出来ないのが残念でございます!」


遠くで、彼女が高く鳴いた。もうすぐ出発の時間だ。

種明かしも無事に終わったことだし、ゲームの脱落者達にも早々に”お還り”いただくとしよう。


俺は帽子の位置をきゅっと直して、彼女の中に引き摺り込まれていく生者達へと手を振った。


「それでは、皆様。来世でまた、お会いしましょう」




さぁ、まだまだゲームは続く。

臆病極まりない死にたがり共よ、病手線へようこそ!!


prev

back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -