モノツキ | ナノ



私の世界は一度滅びた。

いや、正確には、世界から私が滅びたのだろう。


「お…とうと?」

「あぁ、なんだ。君は知らなかったのか」


何もかもが、一瞬で塗り替えられた。

当たり前にそこにあったものが、全て手の届かない場所へ遠ざかり 近しい者に伸ばした腕は弾かれた。
人の眼は豹変し、掌は返され 私には何も残らなかった。


「君達が昼行灯と呼ぶあの男は、私の実弟。アマテラスカンパニー先代社長の第二子にして長男」


そして。あの日、あの時、あの瞬間


「つくも神に呪われる前までの名は、アマガハラ・テルヒサ。本来、あの会社を継ぐべきだった人間だ」


アマガハラ・テルヒサは、死んだ。




アマガハラ・テルヒサの人生。その始点は誰もが望む、人としてこれ以上となく恵まれたものであった。


代々アマガハラ家長男が継ぐ、帝都最大の大企業アマテラスカンパニー。その先代社長、アマガハラ・テルヨシの第二子として、彼はこの世に生を受けた。

テルヨシの妻は体が弱く、第一子ヒナミの出産時の衰弱っぷりから、第二子は望めないだろうと思われていた矢先に宿った命。
そして母親の決死の覚悟の果てに誕生した、一家待望の男子である彼は、アマガハラ家の希望の光として、その生誕は帝都でも話題になった。


生まれながらに祝福を受け、成功者の道が決定していたテルヒサだが、天は彼に更なる幸福を与えていた。

アマテラスカンパニーの跡取りとして、幼い頃からあらゆる英才教育を施されてきたテルヒサは、その全てをそつなく熟す学習能力と、
習い事に於いても他の追随を許さぬ抜群の運動神経に、どんな楽器をも弾き熟す音楽的センス。

更に、父母の良いところを良い形で受け継いだ、端麗な容姿を持っていた。


およそ人が求めるものを持っていた、完璧に近い男・テルヒサ。

時に人々に嫉まれ、心無い言葉を掛けられたりもしたが、それ以上に彼の周囲には彼を羨望し、慕う人間が多く。
彼を糾弾するものがあれば彼自身が何も言わずとも、周りが勝手に排除し、テルヒサの絶頂を守っていた。


家柄、権力、人徳、容姿、頭脳、身体能力。欠点がない程に彼の人生は恵まれていて、誰もがアマガハラ・テルヒサの成功を疑わなかった。

そんな彼の人生は、十八歳のある日。帝都内最高峰の学力を誇る大学への進学を間近に控えた日に、これまで保たれていた幸福の対価と言わんばかりに大きく転落した。


それが、アマガハラ・テルヒサ最後の日にして、モノツキ・昼行灯の誕生の日である。


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