モノツキ | ナノ


我々の世界は、滅ぼされた。
いや、正確には、奪われたと言うべきか。


その昔、人類の一部が世界から弾かれ、居場所を失った追放者達に、新しい世界が与えられた。

ただそれだけを伝えられ、真相を知ること調べること、それ自体を罪とされてきた故に、箱庭の民は何一つ真実を知らぬまま、奴らに飼われてきた。


「教えてやろう。お前達が今日まで畏れ、敬ってきたものが何者で、この世界が何故、奴等に支配されているのか」


追放などではなかった。弾かれてなどいなかった。

我々の祖先は、無垢にして無辜であり、こんな閉ざされた牢獄に囚われる理由など有していなかった。


「そして何故、我等が”真実の民”であるか……。何れ、全ての人類が知ることになるだろう」


帝都クロガネ――。

人口約二千万人、あるべき世界から隔絶された空間に、ぽかりと浮かぶ一つの都市。
罪無き人類が囚われる、ないはずの世界。


「聞くがいい。ラグナロクを迎え、新たに生まれ変わるこの世界の真実を」


此処は、この世界は


「この女が人柱となる、その意味を」


神を騙る者達が創り上げた、箱庭の世界。





それは、神という名を与えられていながら、あるべき世界では小さな妖であった。
数こそ多いが、世界の創造主や支配者となるにはあまりに矮小な、器物に宿る八百万の化生――それが、正しき世界に於けるつくも神である。

そんな彼等がこの箱庭の世界を創り、其処に人間を囲い入れたのは、あるべき世界から弾かれた罪人達の救済であると伝承されているが、真実はそうではない。


あるべき世界では螻蟻も同然のつくも神達は、真の神に憧憬を抱いていた。

全ての命、全ての未来、全ての運命を掌握し、支配し、気儘に遊戯しながら畏敬される絶対の存在。
あるべき世界のあるべき神。その姿に焦がれたつくも神達は、歪んだ欲望を満たす為、自分達の世界を創ることを決めた。


神の世界と、神に作られた世界。その狭間に、つくも神達は小さな箱庭を創った。

つくも神一体一体の力はとても小さいが、八百万の力を集めることで、彼等は、ちっぽけな世界を創造することが出来た。
真の神が創った世界に比べれば、それは見様見真似にもならない、とても小さく、不完全なものであったが、箱庭の完成に、つくも神達は歓喜した。

しかし、彼等の世界は所詮箱庭に過ぎず。其処で新たに命が生まれることはなかった。
虫も、鳥も、植物も、動物も、人間も。つくも神達が創った世界に、何一つ生まれることはなかった。


自分達を神たらしめるものがなければ、ままごとにもなりやしない。
神というのは、崇め、奉るものがいて、初めて神になるのだと、つくも神達は、あるべき世界から幾つかの命を摘み取った。

新たな命を生み出すことは出来ずとも、既に生まれた命を育むことは、箱庭の世界でも可能だった。
だから、つくも神達は、あるべき世界に生きる者達を攫い、自分達の箱庭に捕えた。

真の神に近付く為に。自分達の些末な自尊心と承認欲求を満たす為に、つくも神達は人間を拐かした。あるべき世界で言う「神隠し」である。


こうして、つくも神達は、年端もいかぬ幼子ばかりを攫い、剰え、彼等に虚言を吹き込んだ。


――お前達は、世界から弾かれた。

――此処は、そんなお前達の為に我等が創った新たな世界。

――滅びゆく運命にあったお前達は、救われたのだ。


そんな眉唾物の言葉を吹聴し、つくも神達はこの箱庭の神として君臨し、罪無き子供達は小さな化生を神と崇めながら、偽りの世界で生きていくことになった。

これが、つくも神と帝都クロガネの真実。誰にも知られず、知らされずにいた、本当の罪。


「……そんなことを、どうして貴方達は」

「神隠しにあった子供達の中に、力を持つ者がいた。あるべき世界では、陰陽師や退魔師と呼ばれていた、妖を討つ人間の血族……それが、我等の先祖だ」


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