モノツキ | ナノ


救いたいと、そう想うだけなら誰にでも出来る。
だが、実際に己の身を投げ出し、命を擲ってでも誰かを救おうとする者が、どれだけいることか。

見えない刃に取り囲まれたかのように沈黙する一同を見遣りながら、LANは最後の選定に言葉をくべる。


「つくも神の力を受けるというのがどういうことか、あんたらはもう、想像出来ているだろう。
だが、その想像を遥かに上回る程の苦痛……呪いを受けた時のそれとは比にならない程の精神的・肉体的ダメージが、頭のてっぺんから爪先まで駆け巡る。
その激痛で……アース役を担う者は最悪、死に至る可能性だってあり得る。
勿論、そうならないよう俺達が全面的にバックアップするが……それでも、何かしらの後遺症が残ること、寿命が大きく削られることは覚悟してくれ」


出来過ぎた計画には、リスクが伴う。
少女を救い、世界を保ち、悪しき神をも討ち滅ぼす。そんな理想的な計画を遂行する為には、犠牲を要する。

だからLANは、黙視してきたのだ。

この場にいる面々に、本当にヨリコを救いたいと願う想いがあるのか。己の全てを賭してでも、この計画に乗っかる気構えがあるのか。それを、見定める為に。


「それでも、俺の計画に乗るという奴が四人いるのなら、今すぐ行動を開始する。
だが……ホシムラ・ヨリコの為に己の命を擲つことが出来る人数が四人に満たない場合……この話は無かったことにする」


もしあの時、ケイナが立ち上がらなければ、LANは未だ沈黙していたかもしれない。
あのまま誰もが諦めて、ヨリコを失う未来を受け入れていたのなら、何も言わず、全てを終わらせていた可能性だってある。

それでもLANは、ヨリコを救わんと誰かが蹶起すること信じ、待っていたのだ。

何度深く絶望しようと、何度諦観に挫かれようと、何度膝を抱え悲しみに暮れようと。最後には彼女への想い一つ背負って、粉骨砕身の道を行く。
そういう選択を出来る人物がいるのなら、彼等にヨリコを心から想う気持ちがあるのなら、己の身を擲つ覚悟があるのなら――ただ唯一の救済措置を授けよう、と。


期待や希望は、決して安く手に入らない。何もかも、そう上手くはいかない。
救いの裏には犠牲があり、願いの傍には失意がある。祈りが叶えられるには、誰かの痛みを伴わなければならない。

この理が己の身に降りかかることを承知の上で、ヨリコ救済計画に乗れる者が、果たして何人現れるか――。


これが最後のスクリーニングだと、LANは最終試練の向こう側から、一同の選択を見据える。


「俺達が何もしなくても、世界は保たれる。変わることがあるとすれば……ホシムラ・ヨリコという存在を失うか否か、だ。
だから、彼女の為に死んだって構わないと思える人間が必要人数に満たないなら……俺は此処でラグナロクを見届ける。……この先を決めるのは、あんた達だ」


計画の実行に必要な最低人数は、四人。

昼行灯とケイナは、自ずと互いを見遣って、相手も既に覚悟は出来ていることを確めた。

これで残りは二人。あと、たったの二人なのに、それが途方もなく大きな数に感ぜられて、昼行灯もケイナも、思わず俯いた。


ヨリコを救えるのなら、死ぬ思いをしようが、死にかけようが、本当に死んでしまおうが構わない。
互いにその意志はあることは確認出来たが、問題は、あと二人。同じ想いを抱いている者がいるかどうかだ。

こればかりは、強制出来ない。頼めることでもない。

ヨリコを本当に救いたいと、そう願う者が名乗り出てくれなければ、救済計画は破綻する。
無理に集めた人数で、ヨリコの命と存在を繋いだとして、それが彼女の未来を救うことにはならないからだ。


ヨリコを真の意味で救済するには、後腐れや蟠りを残してはならない。
LANもそれを危惧しているからこそ、自ら名乗り出る者が四人未満の場合、救済計画は白紙にすると言っているのだと、昼行灯とケイナにも理解出来ている。
だから二人は、誰かに期待の眼差しを向けてしまわぬようにと、目を伏せた。

こればかりは祈るしかない。信じるしかない。
この中にあと二人、ヨリコの為に命を賭すことを良しとしてくれる者がいることを――。


昼行灯とケイナは、吐き出したい想いや言葉をぐっと押し止めるように、固く口を噤んだ。そして、唇に僅かに血が滲んで来た頃。


「……一つ聞くが」


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