モノツキ | ナノ

これまで、どうにもならないと思ってきたことが、どうにかなってきた。
だから自分は今もこうして、此処にいられる。他の面々にしたって、そうだ。
諦めかけていたところに希望が射し込んで、二度と出られないと思い込んでいた血糠から這い上がって来られたのだ。

奇跡は、何度だって起こるものだ。今一度、此処で訪れたっていい筈だ。

だったら、その奇跡を呼び込む為に、ヨリコを救う為に、何かすべきなのではないかと、火縄ガンは立ち上がった。


「このままヨリコを見捨てるか、世界が滅ぶまで待ってるしかないなんて……ワタシ、イヤヨ」

「……俺達も同意見だ」


そう言いながらも、薄紅は項垂れて、座り込んだまま動かない。否、動けなかった。


「だが……何とかしようにも、何をどうしたらいいのかさえ俺達には分からない……。つくも神についても、神殺しについても、この世界についても……俺達は、あまりに知らな過ぎるんだ」


現状を思い知らされるその都度、己の無力さを痛感する。

せめて、何か一つでも精通していることがあれば、手を打つことも出来ただろうに。状況を打破する為に必要なことを、誰も知り得ていなかった。
故に、どれだけ策を講じてみても、それは不確かな空想にしかならず。いつしか、一同の心は諦観に縊られていた。

諦めたくはない。未だ希望はある筈なのだと、我武者羅に抗っていたい。
けれど、こうも八方塞がりでは、下手に動いたところで状況を悪化させるだけにしか思えなくて。薄紅達は、神託か天啓が降ってくるのを待つことしか出来なくなってしまっていた。


「全てを知っているのはつくも神だけ……けど、奴等はヨリコを有無を言わさず殺す気だ。話をしてくれたりはしないだろう」

「じゃあ、どうしたいいのヨ!」

「それが分からないから動けないんだろ!!」


ゆくりなく、声を荒げたのはすすぎあらいだった。

どうすればヨリコを救うことが出来るか、その為に何をすればいいか。
荒れ狂う思考の海に身を投じ、暗中模索してみても、考えれば考えるだけ絶望が深まって、彼も限界を迎えつつあるのだろう。

らしくもなく、握り固めた拳で壁を殴り付けて、すすぎあらいは咆哮する。


「……成すべきことが見えているなら、とっくにやってる。けど、幾ら考えたって何も浮かばないんだよ!!」

「止めろ、すすぎ!!」


悔しいのか、火縄ガンがぽろぽろと涙を零しながら、ポケットの中に潜ませていた銃を手にしたところで、シグナルがすすぎあらいを制した。

こんな争いをしていても不毛なだけだし、互いに八つ当たりしても、ヨリコが自分を責めるだけだ。


「てめぇらしくもねぇ……火縄も、ちっと落ち着け!!」


何か言いたそうに洗濯機の頭を傾けるすすぎあらいを睨み付けると、シグナルは火縄ガンの手から拳銃を奪い取った。

そこで火縄ガンは、限界を迎えたのだろう。わんわんと声を上げて泣き出してしまった。


「いやだぁ、ヨリコ、死んじゃいやだぁあ」


本当は、ずっと前からこうして泣き叫びたかったのだろう。

それでも、きっとヨリコを困らせてしまうからと我慢してきたのが、すすぎあらいに叱責されたことで堪え切れなくなって。
髑髏路が必死に宥めようと背を撫でても、火縄ガンはいやだいやだと慟哭する。


またも、誰もが言葉を失くして、無情に流れる時間の中、徒に佇むことしか出来ずにいた。

失意が生んだ停滞。それを引き裂いたのは、救いの手ではなく、新たな絶望だった。


「騒々しい。死にゆく者のいる場とは、とても思えんな」


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