モノツキ | ナノ


二時間ばかし店を見て回ったところで、サカナと火縄は目星を付けることが出来たらしい。
それぞれ「サプライズだから」という理由で、購入場面は見せずにいたが、レジから戻ってきたホクホク顔からするに、良い物に廻り合えたのだろう。

中身は当日、茶々子が箱や包装を開いてからのお楽しみ。

ヨリコは、二人が何を選んだのか知る瞬間、それを見た茶々子の反応を見る瞬間が楽しみだと、顔を綻ばせながら、それぞれの手に握られた紙袋に微笑んだ。


「じゃあ!今日はありがとうね、ヨリちゃん!」

「またネー、ヨリコー!」

「はい!また、ツキカゲで!」


プレゼントが決まったところで解散となり、ヨリコは手を振るサカナ達と別れ、また一人、駅前通りを歩き出した。

すっかり陽は暮れ、町並みは夕焼け色に染まっている。
とはいえ、せっかく駅前まで出てきたのだし、今日はバイトも休みなのだからと、ヨリコは家路には付かず、少しばかし寄り道をしていくことにした。


あちこち歩き回って、ほぼ絶えず談笑を交えていたせいか、小腹が空いている。
家に帰るまでのエネルギーとして、軽く何か食べていこうかと、ヨリコは辺りを軽く見渡した。

そういえば、この近くに新しく鯛焼き屋が出来たと聞いた。
鯛焼きの口に、これでもかとあんことクリームを詰め、とどめと言わんばかりに苺まで盛った、鯛パフェなるもので有名らしい。
いつだかテレビで見て、美味しそう、近い内に行きたいなと思っていたのを思い出したヨリコは、よし今日のおやつはそれにしようと、意気揚々と鯛焼き屋へと足を向けた。

ちょうど、その時だった。


「ヨリコくん?」


凛と響くその声には、聞き覚えがあった。
馴染みがある、という程ではない。しかし、記憶の中には確かに刻まれている、耳触りの良いその声。

まさかと、振り向いてみたところで、向こうも此方の顔を見て、「やっぱり」と顔を明るくした。


目元を覆うサングラスがあっても尚、夕陽に劣らぬ輝きを放つ天性の美貌と、煌めく白金の髪。
見紛う筈もない。これ程までに美しい人は、クロガネにただ一人だ。

しかし、何故彼女がこんなところにと、ヨリコが唖然としていると、その人はサングラスをしているから誰か分からないのだろうと思ったらしい。
指でちょいとサングラスをずらして、これでどうだと言わんばかりの笑顔を見せて来た。

無論、そんなことをしてもらわずとも、ヨリコは彼女が何者かなど、とうに気付いているのだが。


「久し振りだな。私のことを、覚えているかい?」

「も、勿論です!」


彼女程の有名人を、一度見れば脳裏に焼き付くその洗練された美しさと気高さを。何より、あの日受けた衝撃を忘れられる訳がないだろう。

軽くからかうようにして尋ねてきた彼女に、ヨリコはおずおずと頭を下げ、ちゃんと覚えていますよと言う代わりに、彼女の名前を口にした。


「お、お久しぶりです……ヒナミさん」


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