きっと、いつか | ナノ


肆◇詮議3



「ちょ、ちょっと待ってくれ、姉ちゃんよ。
あんた一体、何言ってんだ?」

沈黙を破ったのは、緑の鉢巻をした、がたいのいいお兄さんだった。

「そうだよ、嘘つくなら、もっとマシな嘘ついた方がいいと思うけど」

長い髪をポニーテールにしている少年も続けて口を開く。

「平助の言う通りだせ?俺らをなめてもらっちゃ困るな」

次いで、赤毛のお兄さんまで。
………やっぱり、信じられないよね…。
でも他にどう言ったらいいのよ。

そう困ったときだった。

「確かに君たちの言うとおり、到底信じられるものではありません。
でも、私には、このお嬢さんがこの状況で嘘をつく愚か者だとも思えません」

上座に座り、眼鏡をかけた男性が優しい目をこちらに向けた。

「あなたがそう思う、理由があるのでしょう?
それを教えていただけませんか?」

その声音にちょっと安心し、勇気をもらう。
でも証拠って言っても、何にもない。

「正直、これと言った証拠を出すことは出来ません。
もし、私が口にしたことで新選組の動きが変わることがあってはいけない。
あなた達の力が及ばないところでの未来となると、限られてきます」

何を言えば、新選組の動きを変えずに、先の証言が出来るだろうか…。
しばし考え込む。

「今の将軍は、どなたですか?」

「十四代目の家茂公だが」

私の問いに答えてくれたのは、今までずっと黙っていた、白い襟巻きをした男性だった。

「十四代ですか…。
確か十五代目の将軍は、徳川慶喜のはずです。
ここ数年の間に、代替わりします」

慶喜って一橋慶喜公のことか?という囁きが聞こえる。

「いつ代替わりするのか、どうしてそうなったのか、覚えていません。
私は歴史に詳しくないのです。でも十五代将軍が徳川慶喜だと言うことは有名なので、覚えています」

本当は江戸時代最後の将軍だからなんだけど、さすがにそれは言えない。
なぜ有名なのか?と聞かれなかったことにホッとする。

「そして歴史に詳しくない私でも、新選組は知っています。
私の時代の人で知らない人はいないと思います。
新選組は将軍と同じくらい、いえ、もしかしたらそれ以上に有名です」

私の言葉に、広間にいた全員が目を見開く。
将軍以上に有名になるなんて、今の彼らには想像出来ないだろう。
将軍に対して不敬だと、怒られるかと思った時だった。

「そうか!それは嬉しいことだなぁ!」

私の言葉を聞いた、近藤勇らしき人が朗らかに笑う。

「君の言葉を信じるぞ!君の目は誠実だ。
そんな君の言うことなら、確かなんだろう」

彼の屈託のない笑顔と言葉に、やっと肩の力が抜ける。

「して、未来から来たなら、行く宛はないだろう?
どうかね?落ち着くまで、ここにいては」

「おい、近藤さん!」

紫色の瞳の男性が、慌てて口を挟む。
しかし、局長には逆らえないのか、あの笑顔に負けたのか。
やがて彼は諦めたように、一つため息をつく。

「ったく…あんたって人は。
近藤さんが言うなら、仕方ねぇ。ウチで面倒見てやる。
とりあえず、さっきの部屋に戻っておけ。
今後のことは、また追って話をする。
勝手にうろちょろするんじゃねぇぞ」

渋々ではあるが、どうやら新選組に滞在できるらしい。
………よかった、放り出されたら冗談抜きで死ぬところだった。

「はい、分かりました。
滞在を認めてくださり、ありがとうございます。
これからお世話になります。
今更ですが、私は大門小夜と申します。
よろしくお願いいたします」


こうして、新選組との暮らしが始まった。




prev / next

[ main / top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -