きっと、いつか | ナノ


玖◇身の振り方2


男装で過ごすにあたり、問題が一つ。

「あの、土方さん。私、袴を着たことないんです。
千鶴ちゃんに教えてもらおうと思うんですが
彼女に未来から来たと言ってもいいでしょうか?」

「仕方ねぇな、後で説明しておけ。
部屋はもう余ってねぇし、今後は雪村と同室で過ごしてもらう。
一緒に過ごすのに、隠し通せるもんじゃねぇからな」

許可が出てホッとする。

「それで、その未来から来たって話だがな。
これから起きることを知ってるってことだろ」

土方さんの真剣な口調に、背筋が伸びる。

「知っていることも、確かにあります。
日本の歴史は、学校…寺子屋みたいなところで習いますから。
でも、習ったのは何年も前の話で、詳しく覚えていません。
聞いたことがある事件はあっても、それが何年に起こるのか、詳細までは分かりません」

例えば、織田信長を知っていて桶狭間の戦いも聞いたことがあるが、それが何年に起こったかまでは覚えていないのだ、と説明する。

「なるほどな。それでもうっかり話しちまうこともあるかもしれねぇ。気をつけろ」

話は終わりだというように、土方さんが書きかけの半紙に向かおうとする。

「あの、いいんですか?」

その背中に声をかけると、何がだ?と眉間に皺を寄せる。

「未来について聞かないんですか?」

「ったく、余計な心配するんじゃねぇよ。
俺らは自分が信じる道を進むだけだ。
未来を知ったうえで進む道は、俺らが目指す武士とは違うんだよ。
それに、歴史に詳しくない奴の言葉なんて当てになんねぇだろ?」

冗談めかして言う裏に優しさを感じ、胸が熱くなる。

「ありがとうございます。
その、せめてご迷惑をかけないようにします。
よろしくお願いします」

手をつき、頭を下げる。
この人が厳しいと言われながらも、皆から頼られ慕われている理由が分かった気がした。



そして、さっそく千鶴ちゃんに説明するために、退室しようとしたときだった。

「ああ、そうだ。知らねぇようだから言っとく。
今のお前のその格好、夜着だからな。
今後、男の部屋にそんな格好で入るんじゃねぇぞ」

…………ちょっと待って。
この着物みたいなのって、夜着…パジャマ…?
そんなので、広間で大勢の男性の前に出て、
土方さんと二人で会ってたって言うの……?

「嘘でしょ…!!」

叫んだ私に、背中からクツクツと笑う声が聞こえた。
もっと早く教えてくれたら良かったのに!
前言撤回!やっぱり全然優しくない!



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