きっと、いつか | ナノ


漆◇彼女の事情


自己紹介をして場が和んだところで、お互いの事情について説明しあう。

千鶴ちゃんは、唯一の家族だったお父さんを探して江戸から来たらしい。
この時代、車も電車もない。東京から京都まで歩いて来たという彼女にビックリする。

「父様からの連絡が途絶えて心配で。
京に来たんですけど、浪士に襲われそうになったところを新選組の方に助けていただきました」

「あ、あのときの………?」

記憶を失う前のことを思い出す。
そう言えば、あの時、座り込んでいた少女がいた。
彼女だったんだ。

「はい、そして新選組に連れてこられて。
話をすると、新選組の皆さんも父様を探しているらしくて…。
父様は新選組で仕事をしていたみたいなんです。
父様を探す協力をするために、ここでお世話になることになりました」

「そうだったんだ…お父さんの行方が分からなくて不安だったのに、あんな目にあって怖かったでしょう?」

そう声を掛けると、千鶴ちゃんはその目に、みるみるうちに涙を溜めはじめた。
14,15歳の少女が背負うには、あまりにも重すぎる現実だったんだろう。

「すごく不安で、どうしようって、思って…。
父様にもしもの、ことがあったら、どうしようって、
すみません、小夜さんも大変なのに、…」

泣いて震える千鶴ちゃんの背をそっと撫でる。

「ううん、いいのいいの。気にしないで。
私の方が長く生きてる分、多少の余裕はあるから大丈夫。
溜め込むとよくないし、吐き出しとこ?」

私も、正直言えば不安だ。
この先どうなるのか、現代へ帰れるのか。
向こうでは行方不明扱いになってるんだろうか。
お父さん、お母さんは悲しんでないだろうか。

思うところは色々あるけれど、
考えれば考えるほど、気持ちが沈むのは分かっている。
今はまだ、落ち込むわけにはいかない。

目の前の少女を支えなければと思うことで
なけなしの気力を奮い立たせる。




しばらくすると、千鶴ちゃんが落ち着いてきた。
泣いたことにちょっと照れながら笑う様子に、安心する。
ちょっとはスッキリしたみたい。

そして、今度は私の事情をどう説明しようかと悩んだ時だった。

「おい、大門。ちょっと来い。
今後について話をする」

土方さんが襖を開けて、声をかけてきた。
不安そうに見る千鶴ちゃんに笑顔を向けてから、彼の後をついていくため腰を上げた。



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